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東京地方裁判所 昭和56年(行ウ)21号 判決

東京都中央区銀座二丁目七番一七号

原告

オリンピック観光株式会社

右代表者代表取締役

岩崎与八郎

右訴訟代理人弁護人

木下良平

東京都中央区新富二丁目六番一号

被告

京橋税務署長

渡辺昭嘉

右指定代理人

川野辺充子

江口育夫

斉藤正和

前原真一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

1  被告が昭和五四年三月二八日付でした原告の昭和五〇年一一月一日から昭和五一年一〇月三一日までの事業年度に係る法人税に関する更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告の請求の趣旨に対する答弁

主人同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求の原因

1  原告は、製菓業及び不動産賃貸業等を営む株式会社であって、昭和五〇年一一月一日から昭和五一年一〇月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)に係る法人税につき、その所得金額を〇円とした確定申告をしたところ、被告は、昭和五四年三月二八日付で所得金額一億二三一八万〇八四三円、課税土地譲渡利益金額一億九五〇五万円及び法人税額八七四四万九一〇〇円(控除所得税額一二三三万二八二七円を含む。)とする更正(以下「本件更正」という。)並びに過少申告加算税四三七万二〇〇〇円とする賦課決定(以下「本件決定」という。)をした。

2  しかしながら、本件更正には原告の所得を過大に認定した違法があり、したがって、本件決定も違法であるから、その取消しを求める。

二  請求原因事実に対する被告の認否

請求原因1の事実は認め、同2は争う。

三  被告の抗弁

1  (原告の本件事業年度における所得金額及び土地譲渡利益金額)

原告の本件事業年度における所得金額及び土地譲渡利益金額は、次のとおりである。

〈省略〉

2  (申告所得金額)

右表の申告所得金額は、原告が昭和五二年一月四日付けで被告に提出した本件事業年度の法人税の確定申告書に記載されていた金額である。

3  (還付所得税減算過大額)

右表の還付所得税減算過大額は、本件事業年度の直前の事業年度に係る所得税額の還付金の額として二九六万八六六八円を所得金額から減算すべきところ、原告は二九七万二一六八円を減算して申告していたため右差額三五〇〇円を加算したものである。

4  (寄付金の損金不算入額)

右表の寄付金の損金不算入額は、次のとおりの理由で加算したものである。すなわち原告は、原告が所有していたオリンピック興業株式会社の株式六万株(以下「本件株式」という。)昭和五一年九月三〇日に一株当たり一一〇〇円、総額六六〇〇万円で財団法人岩崎学生寮(以下(岩崎学生寮」という。)に譲渡した。

しかしながら、右株式譲渡時における株式の時価は、後記のとおり、一株当たり三八〇五円総額二億二八三〇万円を下まわらない(なお、適正時価は後記のとおり一株当たり五一四三円、総額三億〇八六〇円であるというべきである。)から、本件株式譲渡は低廉譲渡であり、本件株式の右時価の総額二億二八三〇万円と譲渡価額六六〇〇万円との差額一億六二三〇万円は、原告から岩崎学生寮に対し、実質的に贈与したものと認められるので、当該金額は、法人税法三七条六項に規定する寄付金に該当する。

したがって、右金額については、同条二項の規定を適用して計算した結果、寄付金の損金算入限度額を超える額一億五八八六万〇八〇三円を加算したものである。

5  (繰越欠損金当期控除額)

右表の繰越欠損金当期控除額は、次の理由で減算したものである。すなわち、原告は、法人税法五七条一項(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)の規定により本件事業年度に一億一五一六万五一六八円を損金の額に算入して申告したが、本件更正により所得金額が増加したことに伴い、本件事業年度に控除する繰越欠損金の額は一億五〇八四万八六二八円となることから繰越欠損金の控除不足額三五六八万三四六〇円を減算したものである。

6  (課税土地譲渡利益金額)

原告の本件株式の譲渡は後記9のとおり租税特別措置法(以下「措置法」という。」)六三条一項二号(土地の譲渡等がある場合の特別税率)に規定する譲渡に該当する。したがって、措置法六三条の規定を適用して課税土地譲渡利益金額を計算すると右表の6の金額となる。なお、計算根拠については後記9のとおりである。

7  (本件株式の時価の算定根拠)

(一) 本件株式は、証券取引所に上場されておらずかつ気配相場のない株式であるから、その時価は、その株式発行法人の一株当たりの純資産価格を参酌して通常取引されると認められる価格によるものとして取り扱かわれているところ、本件株式一株当たりの時価は次のとおり少くとも三八〇五円となるので、本件株式の譲渡価額は、右金額に本件株式の譲渡株数六万株を乗じた額二億二八三〇万円を下まわらず、この額を相当とすべきである(なお、本件株式一株当りの適正時価は、五一四三円であり、本件株式の適正譲渡価額は三億〇八六〇円となるから、右相当額は、これを下まわるものとして相当である。)

(二) 本件株式の評価は、いわゆる純資産価額方式によったもので、その計算内容は次表のとおりである。

〈省略〉

(注) 〈5〉ないし〈7〉は、一〇〇〇円未満切捨て

(もっとも前記適正価額によって計算すれば、右〈1〉は七億四五五七万四七二六円、右〈5〉は六億一〇六二万八〇〇〇円、右〈6〉は三億二三六三万二〇〇〇円、右〈7〉は三億〇八六三万二〇〇〇円となる。)。

二億二八三四万八〇〇〇円を六万株で除すれば一株当たり三八〇五円となる(円未満切捨て)。

(三) 右順号〈1〉ないし〈4〉のオリンピック興業の資産及び負債の価額の内訳は次のとおりである。

〈省略〉

右のうち、土地は、東京都目黒区下目黒二丁目一七七番の一及び二所在宅地(地積公簿上二五四二・九九平方メートル、実測二六二四・八七平方メートル、以下「本件土地」という。)であり、その余の資産は、同地上にあるものである。

(もっとも、前記適正価額によって計算すれば、右の土地評価額は七億一〇六二万八四三〇円、資産計評価額は七億四五五七万四七二六円となる。)

8  (本件土地の価額の算定根拠)

法人税法上純資産価額を計算する場合における各資産の評価額は経済人の自由な取引関係を前提とした通常の取引価額(時価)によるべきである。本件においては、本件土地の時価評価(いずれも一平方メートル当たりの価格)として次の四種類のものが存する。

(一) 愛知建設興業株式会社(以下「愛知建設」という。)がオリンピック興業の名義でした依頼に基づき、本件土地の鑑定評価を行った株式会社日興不動産鑑定所が作成した昭和五三年一月二〇日付けの「鑑定評価書」による昭和五三年一月一五日現在における鑑定(以下「日興鑑定」という。)の価額は二九万六四〇〇円であり、これを基として国土庁が発表した公示地価の変動率を適用し、原告が本件株式を譲渡した昭和五一年までの時点修正を行った後の価額 二七万七二九四円

(二) 原告の依頼に基づいて本件土地の鑑定評価を行った三菱信託銀行株式会社が作成した昭和五三年八月一八日付けの「不動産鑑定評価書」による昭和五〇年一一月一五日現在における鑑定(以下「三菱鑑定」という。)の価額 一六万六〇〇〇円

(三) 原告の依頼に基づいて本件土地の鑑定評価を行った有山不動産鑑定事務所が作成した昭和五三年七月三一日付けの「鑑定評価書」による昭和五〇年一一月一五日現在における鑑定(以下「有山鑑定」という。)の価額 一四万四九五六円

(四) 社団法人東京都宅地建物取引業協会が作成した「売買実例図」の昭和五二年三月における本件土地の近隣地域(目黒区下目黒二丁目八番)の売買実例による価額二四万二四二四円に、国土庁が発表した公示地価の変動率を適用し、原告が本件株式を譲渡した昭和五一年までの時点修正を行った後の価額 二三万四三六一円

以上のうち、本件土地の時価を最も合理的かつ適正に表わしているのは(一)の日興鑑定から求められる価格であるというべきであるが、被告は、本件更正においては、右(一)ないし(四)の金額の平均により算定した平方メートル当たり二〇万五六五二円をもって本件土地の時価とし、これに本件土地の実測面積二六二四・八七平方メートルを乗じて得た五億三九八〇万九七六五円をもって本件土地の評価額としたものであって、この評価額は、右適正時価による評価額(七億一〇六二万八四三〇円となる。)を下まわっているから、もとより適法なものというべきである。

右の被告認定の本件土地評価額一平方メートル当たり二〇万五六五二円が正当であることは、次の事実からも明らかである。

すなわち、本件土地についてオリンピック興業を売主、ハイネス恒産株式会社(以下「ハイネス恒産」という。)を買主として、一平方メートル当たり四〇万八三五六円という昭和五三年九月一二日時点の売買実例が存するのである。

被害が行った本件土地の評価時点は昭和五一年九月三〇日であり、現実の右の売買実例とは二年近くの開差があるものの、地価の上昇率(時点修正)一・〇六八九(二一七〇〇〇円÷二〇三〇〇〇円)を考慮して時点修正しても、一平方メートル当たり三八万二〇三二円となり、被告認定評価額を相当額上まわるのはもちろん、前記適正価額をも上まわるのである。

また、本件土地を管轄する目黒税務署管内の昭和五一年中における取引事例のうち、地積が七〇〇平方メートル以上で相続税評価基準における路線価図において、地区区分が本件土地と同一であり、かつ、同路線価図において、路線価が本件土地と同程度のものを二件抽出し、その平均的な取引価額を算定したところ、次表のとおり一平方メートル当たり二二万三三八七円となり。被告認定価額一平方メートル当たり二〇万五六五二円を上まわるのである。

〈省略〉

9  (土地の譲渡等がある場合の特別税率を適用した理由及び課税土地譲渡利益金額の算定根拠)

(一) 原告が譲渡した本件株式は、その有する資産が主として土地等である法人の発行する株式に該当するものであって、本件株式の譲渡は土地譲渡類似株式の譲渡として、土地譲渡益重課の対象となるものである。すなわち、オリンピック興業の資産において、帳簿価額を前提とした土地保有割合(その有する資産の価額の総額のうちに占める昭和四四年一月一日以後に取得した土地等の価額の合計額の割合)は、次表のとおり七四・一パーセントであり、また、土地を時価に評価換えをした被告評価額を前提とした土地保有割合は次表のとおり九三・九パーセントであるから、どちらの場合であっても、次に述べる土地譲渡益重課の対象となる株式等の譲渡に該当することは明らかである。

オリンピック興業の資産内訳

〈省略〉

(小数点第三位未満切捨て)

そして、土地譲渡益重課の対象となる株式等の譲渡とは、次の要件に該当するものである(措置法施行令(昭和五四年政令七一号による改正前のもの、以下「令」という。)三八条の四第三項)。

<要件>

(1) 対象株式

次の〈1〉または〈2〉のいずれかに該当するもの。

〈1〉 〈省略〉が七〇パーセント以上である法人の株式または出資(株式等の取得時期は問わない)

〈2〉 〈省略〉が七〇パーセント以上である法人の株式または出資で昭和四四年一月一日以後に取得したもの(土地等の取得時期は問わない)

(2) 重課対象行為とされる要件

〈1〉 対象株式の譲渡をした事業年度の終了の日以前三年以内のいずれかの時において、当該対象株式の発行法人の特殊関係株主等が発行済株式の五〇パーセント以上を有しており、かつ、当該対象株式を譲渡した者がその特殊関係株主等であること。

〈2〉 当該事業年度において、発行済株式の一〇パーセント(年率)以上を譲渡し、かつ、当該事業年度終了の日以前三年以内における譲渡累計が発行済株式の二五パーセント以上であること。

そこで、原告が譲渡した本件株式をみると、その有する資産が主として土地等である法人の発行する株式に該当し、かつ、その全部を昭和五〇年九月二三日に取得し、これを同五一年九月三〇日に岩崎学生寮に譲渡しているものであるから、右の要件をすべて満たすものである。

右のとおり、原告がした本件株式譲渡は措置法六三条一項二号に規定する土地譲渡類似の株式の譲渡に該当することが明らかであるから、被告は同法六三条の規定を適用したものである。

(二) 課税土地譲渡利益金額の計算は、次表のとおりである。

〈省略〉

(1) 収益の額 二億二八三〇万円

土地の譲渡等に係る収益の額は令三八条の四第四項二号の規定により前記二において述べた本件株式譲渡価額二億二八三〇万円である。

(2) 原価の額 三〇〇〇万円

当該収益に対応する原価の額は同条五項二号の規定により本件株式譲渡直前の帳簿価額三〇〇〇万円である。

(3) 負債利子の額 一九五万円

負債利子の額は、令三八条の四第六項一号の規定により次の〈1〉及び〈2〉の金額の合計額三二五〇万円に六パーセントの割合を乗じて計算した金額である。

〈1〉 原価の額三〇〇〇万円に保有期間の月数(昭和五〇年九月から同年一〇月まで)二か月を乗じてこれを一二で除して計算した金額 五〇〇万円

〈2〉 原価の額三〇〇〇万円に当該譲渡等をした日を含む事業年度の保有期間(昭和五〇年一一月から同五一年九月まで)の月数一一か月を乗じてこれを一二で除して計算した金額 二七五〇万円

(4) 販売費及び一般管理費の額 一三〇万円

販売費及び一般管理費の額は、令三八条の四第六項二号の規定により前記(3)の〈1〉及び〈2〉の合計額三二五〇万円に四パーセントの割合を乗じて計算した金額である。

10  (本件更正の適法性)

以上のとおり原告の本件事業年度における所得金額は一億二三一八万〇八四三円を、課税土地譲渡利益金額は一億九五〇五万円をそれぞれ下まわらないから、被告のした本件更正は適法である。

11  (本件決定の適法性)

本件更正により原告が新たに納付すべきこととなる法人税額は八七四四万一九〇〇円となるため、被告は国税通則法六五条一項の規定に基づき当該法人税額(一〇〇〇円未満切捨て、同法一一八条)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額四三七万二〇〇〇円に相当する過少申告加算税を賦課決定した。

したがって、被告がした本件決定も適法である。

四  抗弁事実に対する原告の認否及び主張

1  抗弁1の表中1及び2は認め、その余は争う。抗弁2及び3は認める。同4中原告が、その所有の本件株式六万株を昭和五一年九月三〇日一株当たり一一〇〇円総額六六〇〇万円で岩崎学生寮に譲渡したことは認め、その余は争う。同5中繰越欠損金の申告は認め、その余は争う(ただし、本件更正が正当であれば、その主張額となることは認める。)。同6は争う。同7(一)中本件株式が証券取引所に上場されておらずかつ気配相場のないものであるから、その時価は、その株式発行法人の一株当たりの純資産価格を参酌して通常取り引きされると認められる価格によるものとして取り扱かわれていることは認め、その余は争う。同7(二)中同項掲記の表の順号〈3〉及び〈4〉は認め、その余は争う。同7(三)中同項掲記の表の預金及び負債は認め、その余は争う。同8中被告主張の各鑑定の存在することは認め、その余は争う。同9中原告が譲渡した本件株式は、昭和五〇年九月二三日に取得したものであること、(二)の表中(2)は認め、その余は争う(もっとも、(二)の表中(3)及び(4)は、収益が存するとすればその主張額となることは認める。)。同10及び11は争う。

2  (山一証券株式会社株式引受部の鑑定について)

原告は、本件株式六万株を岩崎学生寮に譲渡するに当たり、株式の評価につき非上場株式であるため適正な価額を算定する目的で山一証券株式会社(以下「山一証券」という。)株式引受部に右株式の依頼したところ、昭和五一年七月同社より右株式一株当たりの評価額として一一〇〇円と評価する旨の算定結果の回答(以下「山一鑑定」という。)がされた。そこで、右評価額に従い株式譲渡代金が決定されたものである。

右山一鑑定の株式の評価は、時価を基準とする純資産方式に基づきなされ、本件土地の評価額を一平方メートル当たり一〇万四九五〇円とし、さらにオリンピック興業が休業中の会社であるため三〇パーセント相当額を減額して算定したものである。

しかして、右株式の評価方法は、非上場株式の時価の算定方法として一般に妥当なものと認められるものであり、これによって算定した評価額が適正妥当なものであることはもちろん、当時取引当事者としては、右評価額以外に基準とすべきものは全く存しなかったものである。

したがって、これが低廉譲渡に当たらないものであることはいうまでもなく、かつまた取引当事者において不等価取引の認識が存せず、ましてや贈与の意思など存しない以上、寄付金に当たらぬことはもとよりである。

被告は、山一鑑定の株式評価は、岩崎産業株式会社(以下「岩崎産業」という。)より評価の目的を明示されないまま依頼され、将来鹿児島交通株式会社の上場に際し幹事会社として引き受けたいとの思或からなしたサービスにすぎないと主張する。

しかしながら、右株式評価は、原告会社において、たまたま関連会社の岩崎産業が山一証券と株式引受等により交渉があったところから右岩崎産業を通じ本件株式の評価を依頼したものであって、右依頼の趣旨は「本件株式の売買をなすこととしたいので価格を算定してもらいたい」とするものであった。

被告は、山一鑑定を将来への思惑とかサービスとかによってしたものというがこれらのことは全く評価の内容とは無関係である。鹿児島交通の上場の話など出たこともなければ、問題にされたこともない。またサービスだからと言って評価の内容に差があるはずがないことももとよりである。

何よりも我国屈指の大証券会社で株式評価についても最高の知識経験を有する山一証券の引受部において計算根拠を明示して評価したものである以上、それが専門家の評価であることはいうまでもない。

又被告は右評価が本件事例に妥当する評価でないことは、右評価が山一証券経済研究所で行われず株式引受部で行われていることから明らかであると主張するが、評価を山一証券の内部のどこの部門でなすかは、全く山一証券の内部事情にすぎないものである。

3  (山一鑑定の採用した路線価方式について)

山一鑑定は、本件土地の時価を算出するにつき路線価方式によっているものであるが、右路線価方式は相続税・贈与税の課税目的のため定められたものであり、これによって算出される路線価価格は、税法の見地からするならば、適正な時価というべきものである。

路線価方式は、「相続税財産評価に関する基本通達」に従ってなされるものであり、宅地の評価につきこれと状況が類似する宅地の売買実例価額、精通者の意見価額等を参酌して路線価を定めこれを決定するについては各種の調整が考慮されているものであって、単に相続税及び贈与税についてのみならず、その他法人税、所得税においても宅地の評価に採用されているものであって、この点路線価方式は所得税における譲渡所得算定等の場合の宅地評価方法として合理的かつ妥当なものである。相続税法における財産評価は時価によるものであり、その時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引きが行われる場合通常成立すると認められる価額、即ち客観的交換価値をいうものと解せられるものであって、右のごとき時価が相続税・贈与税のみならず、その他の税法一般においても適用されるべきものであることはいうまでもないところである。

このような相続税法における時価とは前記評価通達により評価した価額をいうべきものであるから、評価通達に直接定められていない場合においても定められているものに準じて決定するのが合理的であり、かつ租税負担公平の原則にも適合するというべきである。

もっとも右路線価方式による路線価価格が取引価格の実勢より若干低目に評価されていることは否めない事実であるとしても、右路線価方式は税法体系中における宅地の評価方式とこれに基づく時価とを明確に表示しかつ実勢に即して例年改訂されているものであることよりすれば、単に相続税・贈与税の課税目的のみに止まらず、その他の税法の分野において評価に当たって適用さるべきものなのであり、現在明文をもってこのことを確認している法人税の通達も存する(法人税基本通達一三-一-二「使用の対価としての相当の地代」)うえ、非上場株式の移転の場合において法人税・所得税の関係においても、前記相続税財産評価基準による評価が通用しているものである。

このように路線価価格は、単に相続税・贈与税のみならず法人税を含む税法体系において一般に時価と承認されているものなのである。

そうだとすれば、路線価価格は法人税の課税に当っても当然妥当し適用さるべきであり、これに基づく本件土地の前記評価額が適正な時価と認められるべきである。

被告は、路線価方式による評価額については、相続税・贈与税の課税目的に適合するよう相当程度控え目な価格に算定され、土地の現実の取引価格よりはるかに低額であることは公知の事実であるとし、したがって右方式による評価額は法人税の場合には適合しないと主張する。

しかしながら、まず「相続税・贈与税の課税目的に適合するよう」などという課税目的なるものは恣意的なものであって、法の趣旨目的に背馳するものであり、なんら根拠は存しない。のみならずこれが「相当程度控え目な価格に算定」されることなどなんら正当な理由も見出せないばかりか「土地の現実の取引価格よりはるかに低額であることは公知の事実である」ことなどあり得べからざることである。

これは、相続税法の本来の趣旨目的に反することを自認するにひとしく本来不適法であるばかりか、「低額であることは公知の事実である」ことなど全く事実に反する。現に一部の地域を除く大多数の地方においては、路線価価格は取引価格を見出すための指標となっているものである。

したがって、路線価方式による評価方法に基づきなされた株式評価額が相続税法には適合し法人税法の場合には適合しないなどとは全く一方的な独断にすぎないものである。

次に被告は、「いかなる評価方法に基づいて時価を算定するかは各税法の課税目的等に従って決定されるべきものであり、相続税についてはその評価方法を基本通達において宅地につき路線価方式等によるとしている」が、これは「相続税法における課税」が「無償で取得し利益を得た」という「非経済的行為により取得した利益に対し課税するという相続税等の課税目的に適合するよう定められた」からであり、「経済的合理的取引行為により取得した利益に課税するという法人税法上の時価評価の方法として採用することはできない」と主張される。

しかしながら、原告の既に述べるとおり課税の趣旨、目的は各税法において明定されており、相続税法においても時価主義を採用することを明定し、この点においては他の法人税法所得税法と全く同様である。相続税法においても時価とは、客観的な交換価値を示す価額であり、これは評価通達において「時価とは課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいう」ものとされているが、これは各税法における時価の理解と全く同一である。

これによって明らかなように、被告の主張するごとき、相続税法においては非経済的行為により取得した利益に対し課税するという課税目的からして低目に評価することなど許されるはずがない。法は正に客観的な交換価値を適正に評価することを要請しているものであって、無償の財産取得だからと言って、これを濫りに低目に評価することなど法の明定する趣旨目的に背反するものである。何故無償取得が低目に評価されねばならないのか説明は不可能であり理解に苦しまざるを得ない。

要するに、被告の主張に反して、相続税法における評価も他の税法と同じく適正な時価評価を目的としているものであり、そのための手法として路線価方式を採用しているものであって、かかる趣旨目的からするならば、同一の時価評価を目的とする法人税の課税に当たっても、適用されるべきものである。

被告は、法人税基本通達一三-一-二(「使用の対価としての相当の地代」)は「『相当の地代の額』の計算上相続税評価額を土地の更地価額として認めるだけのことであると主張される。

しかしながら、法人税法上における「相当の地代の額」は、更地価額に対し適正妥当な運用利廻りを乗じたものであるから、その基礎である更地価額自体も適正妥当な評価額即ち正常価格でなければならないことは当然である。

本通達は、法人税法上における「相当の地代の額」を計算するに当り、路線価方式による土地評価額を採用することを認めたものであり、このことは、法人税法においても相続税評価額即ち土地については路線価価格を適正妥当な更地価額とみなすことを法人税基本通達により明示しているものというべきである。

4  (本件株式評価における建物・設備等の評価及びディスカウントについて)

本件株式の評価において、土地の評価とならんで問題とされるべきものは、建物・設備・造作・構築物・機械についての評価をどのようにみるべきかという点である。

被告も採用した純資産方式は、周知のとおり「相続税財産評価に関する基本通達」により取引相場のない株式の評価につき小会社の発行する株式につき原則的に適用される評価方法であり、資産についても右通達に定められている評価方法によって評価した価額(相続税評価額)によることとされている。

純資産方式は、会社解散時における純財産の処分価値を想定してそれを基準とするものとされているものであるから、各資産につき評価替えをする必要があることはいうまでもないところである。

ところで、本件株式発行会社は、昭和五〇年九月に不動産管理を営業目的として設立され、もっぱら閉鎖後における目黒工場・寄宿寮の土地建物その他機械設備等の効率的な運用に当たることとなり、そのため工場設備の賃貸あるいは一部不用機械設備の売却処分、寄宿寮の活用等に尽力したものであるが、適当な工場設備の借り手も見付からず、また一部不用機械設備の買い手も出ないまま一年余を徒過したものであり、その間において放置された遊休工場機械設備等は急速に汚損、老朽化の一途をたどったのである。

そのためもはや工場機械設備の活用ないし売却処分もとうてい不可能となったので、右会社としては当初の計画を断念するのやむなきに至り、これらの建物・設備・造作・構築物及び機械は不用物件として処理せざるを得なかったものである。

以上のような情況において本件株式の譲渡がなされたものであり、譲受人である岩崎学生寮においても建物はじめ一切の設備・造作・構築物を撤去し、外国人留学生会館及びその付属施設を建設する目的であったものであるから、前述のとおり各資産の評価をなすならば、右資産の評価額はすべて零であることは明らかである(岩崎学生寮が製菓業を営むのでない以上、このことは余りにも自明かつ当然の事柄である)。

のみならず、右土地としては更地としてその上に留学生会館を建設する目的であるから前記各資産を不用物件として撤去し、これを整地する必要が存する以上、その除去費用が計上さるべきことは当然である。現に右資産は、すべて撤去されて廃棄処分となり、右撤去搬出等に三二〇〇万円に上る多額の除去費用を要したものである。

以上のとおり、純資産方式をとりながら、前記各資産につき不用物件であり無価値であることが明らかであるにかかわらず、これを評価替えすることなく、帳簿価格のまま算定した被告の評価算定が全く誤りであることは明らかである。

ちなみに前記通達によれば、もともと本件会社は会社の規模において中会社であり、したがって、その株式の評価方法は、類似業種比準方式と純資産価額方式との併用方式又は配当還元方式によるべきものであるところ、これを中会社であるに拘らず純資産価額方式によった理由は被告の主張するように右会社が休業中であることからであると考えられる。

そうだとすれば、このことからしても会社休業中即ち工場閉鎖を前提とするのであるから、これにより遊休状態となった工場機械設備については、各資産の評価替えをなす必要が存することはもとよりである。

しかるに被告は土地のみにつき評価替えを行いながら、休業により全く無価値となった建物・設備・構築物・機械については、全く評価替えをなさないのであって、このような恣意的、不公平かつ不当な処分が許されるはずがないことはいうまでもないし、これが純資産価額方式に矛盾するものであることはもとよりである。

しかし右各資産につき評価をなすならば、無価値としてすべて零であることは前述のとおりであるとともに、建物、煙突、各取毀、除去、運搬等費用として二八四三万五〇〇〇円の除去費用を計上すべきものである。

さらにまた、本件株式の評価にあたっては、会社創業後一年を経過していない点、当分収益が望めない点及び株式譲渡制限規定の存すること等の事情よりして、山一鑑定が採用したとおり三〇パーセント程度のディスカウントをなすことが適当と認められるものである。

5  (日興鑑定について)

(一) (日興鑑定の意図・目的について)

日興鑑定は愛知建設がオリンピック興業の名義でした依頼によるものであり、その鑑定依頼の目的は「本件土地の売買を目的として国土利用計画法第二三条に基く届出申請に当たりその価格の参考としての適正価格の算出」にあるが、愛知建設は、岩崎学生寮よりオリンピック興業の全株式を譲り受け、実質上本件土地の所有者となったものであり、右土地上にマンションの建設分譲を計画したものであった。

しかしマンションの分譲については都知事に対し国土利用計画法二三条に基く土地に関する権利の移転の屈出が必要とされるところ、右屈出中の予定対価の額が相当な価額に照らし著しく適正を欠くと認められるときは都知事より契約締結の中止、予定対価の減額等の勧告を受ける(同法二四条以下)こととなり、実際の取扱いとしては右勧告以前に行政指導により予定対価を相当な価額まで減額することを求められているのであって、右相当な価額がどれくらいになるかはマンション分譲業者としては正に死活の問題であるため、これを自己の販売予定対価にまで引き上げる目的で時価をはるかに上まわる価額を記載した鑑定評価書を提出するのがかかる場合の常套手段なのであり、右鑑定評価書はかかる目的をもって作成されたものなのである。

要するに、愛和建設としては、屈出の販売予定対価を高くする目的をもって依頼したものなのであり、かかる依頼に基づき日興不動産鑑定所において作成した鑑定評価書は、正にかかる目的で作成されたことが明白なものであって、要は国土利用計画法に基づく屈出につき自己の販売予定対価が相当な価額であることを行政官庁に対し説明しこれを根拠づけるための資料に過ぎないものであって、そのために評価に当たり採用した取引事例は本件土地とは環境が全く異る地域のものを採用しているうえ、個別要因、地域要因の補正も著しく高額な方向にことさら修正され、その結果として適正な時価をはるかにこえる評価額を算出しているものである。

したがって、かかる意図・目的をもって作成された鑑定評価書は、その基礎資料、算出方法に根本的かつ重大な欠陥があり、全く合理性を欠くものであって、その評価額は信用に値いしない。

(二) (日興鑑定の前提とする本件土地の使用目的について)

日興鑑定は、現況対象地を工場敷地としながら「マンション建設計画に基づく整地後の更地価格」を評定するとしている。

しかしながら、本件株式の譲渡がなされた昭和五一年九月三〇日においては、本件土地を外国人留学生会館として利用する計画でそのため譲渡をなしたもので、マンション建設の目的など全く存在しなかったものなのであり、したがってマンション建設による分譲を目的とした評価額は、もともとかかる目的が全く存しない昭和五一年九月三〇日における本件土地評価額算定の根拠とはなし得ないことは明白である。のみならず、本件土地の客観的状況それ自体からしても、右土地は本件の株式譲渡当時はもとよりのこと九年も経過した現在においてさえ、マンション用適地というよりは、周辺土地の使用状況と同様に中小工場又は倉庫、配送所等の工場、業務用適地であるとみられることからしても、当時においてはとくに特定の目的がないかぎりマンション建設を前提としての土地の評価は不適切であるというべきである。

そうだとすれば、日興鑑定書はマンション建設を前提とし、それ以外の用途は考慮していないというその前提条件からしてマンション建設を目的としていない本件株式譲渡時における本件土地の評価額算定の資料としての適格性を欠くものであることは、余りに明白である。

むしろ仮に右用地であるとしても、本件土地は面積過大であるため、高額に処分するためにはこれを細分化(例えばミニ分譲地のごとく)することが高価格で売却するにつき容易であることは周知のとおりであり、これこそ経済的に見た最有効使用と認定されるものである。

(三) (日興鑑定の選択した取引事例について)

日興鑑定は、その採用した取引事例比較法による地価評価のための取引事例の選択に当たり、マンション用適地のみの取引事例を採用したものであるが、今仮にマンション建設目的を前提とした場合においても、日興鑑定は適正妥当なマンション用適地の取引事例地を選択採用していないのである。

例えマンション建設のための譲渡についての評価であっても、取引事例のうち、マンション用適地の事例を選ぶについては、あくまでも事例地が対象土地と同じ地域要因に属するものであることを前提条件とするのである。すなわち対象土地が商業地域に属するならば取引事例地も同じ地域要因に属する商業地域より、また対象土地が準工業地域に属するならば取引事例地も同じ地域要因に属する準工業地域より採用されねばならない。このことは、同じくマンション用適地と言っても千差万別であり、純然たる住宅地におけるものから、商業地、繁華街におけるもの、さらには工場移転跡地等に建てられる準工業乃至工業地域におけるもの、あるいは郊外地におけるものというように多種多様にわたり、したがってまたその価格に著しい高低差が存することは当然のことだからである。マンション用適地ならどのような地域に属しようと取引事例として採用するなどは誤りである。

このように、いかにマンション用地とは言っても、取引事例の採用に当っては事例地が評価対象土地と同じ地域要因に属することがまず前提とされるものであり、したがって、対象土地と同一ないしは可及的に類似した地域要因に属しかつ同一用途の土地の取引事例を採用しなければならないことは見易い道理であると言わねばならない。

この点において、日興鑑定書は本件土地が準工業地域であり、周辺は中小工場、倉庫、小規模住宅又は工場兼住宅等が混在し、悪臭、騒音、居住属等からして、普通住宅地域ないしは中小工場地域に属するものであるのにかかわらず、取引事例地として高級住宅地域及び商業地域におけるもののみを採用しているのであって、地域の用途的な種別を全く無視したものであり、いかにマンション建設を前提としたものとはいえ根本的に取引事例の採用を誤っているという他ない。

すなわち、本鑑定の採用した事例地、公示地及び基準地は、いずれも第一級の商業地(事例地A)、駅に近接し事務所ビルに最好適地(事例地B及びC)、地域性・環境性の点で優れ高級住宅地として本件土地とは地価を全く異にする目黒区三田二丁目の土地(事例地D及びE並びに公示地)、幹線道路である山手通り沿いの商業地(基準地)を採用しているものであり、その事例地は、いずれも商業地(事例地A、基準地)か又はすぐれた業務移行地(事例地B及びC)ないし住居専用地域である高級住宅地(事例地D及びE並びに公示地)であり、地価が著しく高い土地なのであって、ことさらかかる高価格の取引事例のみを採用し低い価格の取引事例を除外していることが一見して明白なのである。

その一例として、例えば前記事例地Bをとりあげてみるならば、右土地は、目黒駅より一〇〇米の近距離に位置し駅前の三井銀行目黒支店に隣接する第一級の商業地乃至業務移行地であり、前面巾員二五米の目黒通りに近接しているものであり、店舗、事務所用地としては有数の好適地であって、したがって昭和五一年度の路線価価格も平方米当り一九万円とされ、本件土地の九万円の二倍以上とされているものである。

かかる事例地Bが本件土地とは全く異なるものであり、取引事例としては、不適切極まるものであることは、一見して明瞭と言わねばならず、このことは、他の事例地A、C、D、E及び公示地の選択についても等しくあてはまることである。

これに反し、本件土地は準工業地域・準防火地域・第三種高度地区であり、目黒川沿いの巾員七米の区道に面し近隣、後背地は中小工場、倉庫、小規模住宅又は住宅兼工場等が混在し、悪臭、騒音等により住環境としてはすこぶる劣悪であって、右取引事例AないしE、公示地及び基準地とは全く地域性、環境性又は収益性を異にするものであって、これに対する比較事例としては右取引事例はまことに不適当である。被告は、日興鑑定書において低価格の取引事例を除外した事実はないとしているが、右鑑定書においては本件土地に極めて近接し同じく準工業地域にあって本件土地と地域要因を同じくし、その他の要因も類似する下目黒二-一二-三の土地(有山鑑定書別表1においてHとして表示されている土地)の取引事例を低価格の故にことさら除外しているのである。

(四) (日興鑑定の比準事例地に関する補正について)

もし仮に他に事例が存しないため前記の各事例地を取引事例として採用するとするならば、地域要因、個別的要因による補正を適正に行う必要が存することは言うまでもない。

しかるに日興鑑定においては、個別的要因及び地域要因において極めて僅かな補正しか行っておらず、ことさら作為的に高い比準価格を作出していることが明らかに窺われるものである。

ちなみに、右に述べた事例地AないしEにおける個別的要因及び地域要因の比較につき、客観的に適正妥当と認められる格差率と右鑑定評価書におけるそれとを対比してみるならば別表格差率の対比表のとおりであり、その較差は最低七パーセントから最高実に三七パーセントにまで及びいかに右鑑定評価書の補修正が不合理かつ根拠のないものであるかが明らかとなる。

その結果、日興鑑定書においては取引事例AないしEの各価格を一平方メートル当たり二八万一〇〇〇円ないし二八万三三〇〇円とし、中庸値を妥当として比準価格を二八万二七〇〇円と査定したものであるが、これが異常に高い価格であることはいうまでもないところである。

ちなみに、他の二鑑定評価書中における取引事例比較法による比準価格をみるならば、三鑑定においては一平方メートル当たり一六万六〇〇〇円、有山鑑定においては一八万円とされているのであって、これら二鑑定の評価額と比すれば、いかに異常な高価格の評価額であるかが判然とするものである。

さらにまた、後述の公示価格より算出した適正な標準価格一平方メートル当たり一七万八九〇〇円と比較しても、その余りに異常な高価格であることが明らかとなる。

したがって日興鑑定の取引事例においても適正な補修正を加えるとするならば、一八万円乃至二〇万円程度となるものと推測されるのである。

(五) (日興鑑定の収益価格及び標準価格について)

日興鑑定の「土地残余法による収益価格」における算定方法として〔標準地の収益価格〕中の地域格差八〇分の一〇〇については、地域要因において収益事例地はほとんど格差が存せず、したがってかかる地域格差は全く根拠が存しない。

このことは、有山鑑定においても同一の収益事例地を採用しているにかかわらず、かかる地域格差を設けていないことからも明らかである。

還元利回りについても、日興鑑定は、年五パーセントの利回りで還元しているのは失当であり年六パーセントの利回りを適正とすることは明白である。

さらにまた、右収益価格については、事例地が角地であるため標準地としては角地補正による減額として一パーセント減額すべきであるのにかかわらず日興鑑定は、これを全くなしていないものであって、不相当というべきであり、右のごとき適正利率及び補修正を加えるならば、収益価格は一平方メートル当たり一八万円程度になるものと推測される。

以上によって明らかなとおり、右鑑定評価書中の比準価格及び収益価格については適正な事例地の選択がなされておらず、かつ、補修正がなんらの合理的な根拠もないのに恣意的になされているものであり、不当な高価格であるので、右鑑定中「標準価格の査定」において、比準価格八、収益価格二の割合で関連づけたとする標準価格二七万四四〇〇円(一平方メートル当たり、以下同じ)は、全く不当な高価格の評価額というべきである。

前述のとおり適正な補修正を施した結果、算出される比準価格は一八万円程度であり、収益価格も同じく一八万円前後と認められるものであって、これよりすれば標準価格も一八万円とみるべきものである。

(六) (日興鑑定の地価公示地等との規準について)

日興鑑定のした地価公示地等との規準は、算定方法に重大な誤りが存し、ことさら歪曲している。

すなわち、右において選択した地価公示地等は、ことさらに高価格であって、地域性・環境性・収益性等の点で比較のためには全く不適切な土地であり、かかる地価公示地を選択したこと自体不合理であるが、さらに右規準値の算出に当たり、地域格差として公示地については100/88、基準地については100/114の修正をなしているが、かかる格差率は全く根拠がないものであり、公示地は住居専用地域である高級住宅地、基準地は幹線道路の山手通り沿いの商業地として地域要因として修正をなすとすれば、大巾な補正が必要とされるものであることはいうまでもない。

この点については、地域格差については、各土地の路線価格及び固定資産評価額の各対比によってなす方法がより合理的であると認められるので、まず路線価格の対比をすると

〈省略〉

次に固定資産評価額の対比をすると

〈省略〉

(100円未満四捨五入)

となり、右によればいずれにせよ一平方メートル一六万一〇〇〇円ないし二〇万六〇〇〇円が規準値となるものであって、これよりすれば右鑑定評価の地価公示値等との規準は全く高きに失すると言わざるを得ない。

しかも右鑑定評価が参考にしたと称する地元精通者意見なるものは、要するに地元不動産業者のいわゆる呼び値にすぎず、時価よりはるかに高い価格であることは周知のとおりである。

なお原告が主張する地域格差の修正を各土地の路線価価格及び固定資産評価額の各対比によってなす手法は、鑑定評価額の価格の適正を裏付ける目的で一般に広く用いられる方式の一つであり、単なる算定評価などではない。

(七) (日興鑑定の対象地に関する個別的要因補正について)

日興鑑定は、本件土地を標準地と比較するため個別的要因による修正を対象地に施しているが、右修正は全く根拠が存しないものである。

即ち、右個別的要因につき、画地条件として対象地のそれを「三方路及び側道」としてブラス八パーセント、「地積やや大」として零としているが、そもそも「三方路」による修正率、あるいは側道を含めて「四方路」による修正率を八パーセントとする根拠は全く存しないものであり、右土地が二方路であり、側道は狭隘であることよりすれば、プラス五パーセントが適当である。

かえって地積が通常に比しかなり過大であるところから面大修正として、マイナス一三・六パーセントとすべきであり、これに時点修正として四・三パーセントを減ずることとなる。

広大な面積の土地に対しては面大減価を行う必要が有するものであり、中層マンション適地であるからと言って、これを行う必要がないとすることは全く当を得ない。

それとともに、右鑑定評価においては、評価時点において現に廃屋等の建物、巨大煙突等の構築物が存在するのにかかわらずその除去費用及び整地費用等による建付減価補正を全く施さないで「整地後の更地価格」を評定するという根本的矛盾さえ犯しているものであり、とうてい評価の根拠となし得る合理的なものでないことは明らかと言わねばならない。

被告の主張する公共事業等の用地買収の場合は、公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱によって行われ、本件とは全く趣旨目的を異にするものであり同一には論じられない。

6  (有山鑑定及び三菱鑑定について)

有山鑑定及び三菱鑑定(以下これらを、「両鑑定」と総称する。)は、適正な時価を算定したものであるから、これを採用すべきである。

すなわち、両鑑定においては、本件土地が準工業地域に属し現況において工場・従業員寮敷地として使用されていたものであって、付近一帯は工場・倉庫・事務所及び小規模住宅が賦在する地域であることに鑑み、まず前提となるべき地域要因につきこれと同一ないし類似する一般住居地、準工業地域における取引事例を採用したものであって、極めて適切妥当と言うべきであり、被告の主張は理由がない。

この点においてとくに注目されるべきことは、本件土地と極めて接近し、本件土地と地域要因を全く同じくしている土地下目黒二-一二-三(三菱鑑定事例番号〈イ〉及び有山鑑定事例地H)の取引事例である。右土地五一九平方メートルは、昭和五〇年四月一平方メートル当たり一六万五一〇〇円で売買されているものであり、右土地が本件土地と極めて近接した位置にあり同一の用途に供される近隣地域としてその地域要因をほとんど同一にしているところからすれば、本件土地の価格水準も右土地とほぼ同じ一平方メートル当たり一六万円ないし一七万円前後であることが何人にも容易に推測できることなのである。したがって、右土地の取引事例を無視しては、比準価格の出しようがないと言い得るのである。このことは言い換えれば、本件土地と近接しほとんどすべての要因において同一とさえ言える右土地の価格が昭和五〇年四月に一平方メートル当たり一六万五一〇〇円であるのに、本件土地がこれよりはるかに高額な二〇万五六五二円であることが一体あり得ることなのかということになる(右土地が坪当り五四万五〇〇〇円であるのに、本件土地が六七万八〇〇〇円となり余りにも差が開きすぎる)のであり、何故そのような差があるのか全く説明に窮せざるを得ないであろう。

両鑑定における評価額は、鑑定評価というものの性質上若干の差は存するものの(更地価格一平方メートル当たり前者は一六万六〇〇〇円、後者は一四万四九五六円)、その差はほぼ許容範囲内に存するものと見られ、鑑定評価の目的はいずれも適正な時価算定のためであり、比準価格の決定に当たり選択した取引事例は、いずれも適切であり、補修正も合理的になされており、また収益価格の算定も適正になされ、標準価格の評定及び対象地の価格決定も適正妥当かつ合理的と認められる。

ただ右両鑑定中、有山鑑定においては、より取引事例が豊富でありかつ本件対象地につきよりきめ細かな個別的要因による修正を施している点において、より正確性、信頼性が担保されているものと言い得るのである。

そうだとすれば、適正な時価算定としては、まず第一次的には有山鑑定、第二次的には三菱鑑定によるべきが適切妥当かつ合理的と思料されるものである。

なお、被告は、有山鑑定において誤った算定式を採用して比準価格を算定していると主張するが、有山鑑定における「基準地の価格×(地域要因の格差率+個別的要因の格差率)」という算定式は、各要因の格差率の採用に当たって加算する方法も鑑定評価の一手法として通常行われているものであり誤りではない(ちなみにいずれの算定式を採用したとしても、その較差は本件においては極めて僅少であり、最終的価格の決定においてもほとんど差異を見ずいずれの方式を採用するも影響を及ぼしていないことは計算上明白である)。

また還元利回りや角地補正についても鑑定人により見解を異にするところであり、むしろ通常においては還元利回り年六パーセント、角地補正を行うことが行われているところである。

以上のことからすれば、収益価格についても、有山鑑定が算出した一平方メートル当たり一七万九四〇〇円が適正な価格である。なお日興鑑定においても不当な地域格差を行わず適正利率及び適正な補修正を加えるならば一平方メートル当たり一八万円程度となり適正な価格となるものなのである。

以上述べたところから明らかなように、被告の主張とは全く反対に三鑑定評価中において日興鑑定にはその基礎資料、評価方法において数々の疑問があり、そのため他の二鑑定評価に比し、極端に鑑定評価が高くなったものと考えられるのであって、このように他の鑑定評価より極端にかけ離れた価格を示した鑑定は鑑定評価より排除さるべきものなのである。

7  (公示価格より算出した適正価格について)

以上のとおり、本件土地の時価算定は、有山鑑定または三菱鑑定によるべきものであるが、さらにその裏付けとして、地価公示法に基づき国土庁の発表した公示価格及び右法律に準拠した都道府県知事による標準価格によっても、右評価額が適正価格であることが裏づけられるものである。

国土庁の発表する公示価格は、適正な地価の形成に寄与する目的をもって地価公示法に基づき土地鑑定委員会において、不動産鑑定士の鑑定評価を求めた結果を審査、調整し判定公示されるに至るものであり、これは「正常価格」と称され、適正な価格を表示しているものである。

したがって、公示価格は、右公示価格を基準として取引価格を決定することが当然期待されるばかりでなく、国土利用計画法による土地取引規制のための基準価格算定の基礎ともなるのであり、右地価公示の運用の実情について見ても、ほぼ取引の実勢に合致し適正な地価の形成に寄与しているものである。

以上の理は、国土利用計画法の施行を円滑にする目的をもって地価公示制度に準じた手続により都道府県知事によって行われる基準地に対する標準価格の調査公表についても同様に適合するものであって、「公示価格」とあわせて「標準価格」が自由な取引において通常成立すると認められる「正常価格」として適正な価格を表示しているものである。

しかして、本件土地の価格算定の基礎となるべき昭和五〇年の公示価格、標準価格とこれより算出される適正価格をみるならば次のとおりである。

公示地

基準地

所在

目黒区下目黒5-5-5

目黒4-19-9

価格時点

50.1

50.7

㎡当り価格

176,000円

170,000円

地域要因補正

悪臭-4%

駅+3%

容積率+3%

悪臭-4%

駅+2%

容積率+3%

商店+3%

個別要因補正

河川-3%

河川-3%

補正後価格

174,200円×9/8.9

171,700円×9/8.5

路線価によるスライド額

=176,200円

=181,800円

右により見るならば、公示地、基準地の公示価格、標準価格より算出される標準価格は、一平方メートル当たり一七万六〇〇〇円及び一八万一八〇〇円の各価格の中庸値である一平方メートル当たり一七万八九〇〇円が適正と認められるのである。

そうだとすれば、右標準価格は、有山鑑定における標準価格一平方メートル当たり一八万円、三菱鑑定における標準価格一平方メートル当たり一七万五〇〇〇円とほぼ合致するものであって、右各鑑定評価が適正妥当であることを裏付けるに足るものであることは明らかである。

被告は国土庁の発表した公示価格は、取引の一つの指標にすぎず、取引価格の実勢を表わすものでないと主張されるが、これは全く不当である。

取引当事者は右公示価格を基準として取引価格を決定することが期待されることはもちろんのこと、不動産鑑定士等は鑑定評価につきこれを規準とし、公共事業の施行者は、用地を取得する場合には公示価格を基礎とした適正な価格によらねばならず(地価公示法八条ないし一一条参照)、さらにまた一定の面積以上の土地の取引の屈出と規制区域内での土地の取引の許可制度の下においても取引に当たり同様に公示価格を基礎として適正な価格を算出しなければならないものである(国土利用計画法一六条、二四条参照)。

しかして、右地価公示の運用の実情についてもごく一部の例外を除きほとんど取引の実勢に合致していることが確認されているものである。

このように、公示価格は単に取引価格の一指標などという程度のものではなく、正に土地取引のための適正な価格算定の基礎をなしているものであり、被告の右主張は、法に明定されている地価公示制度の趣旨目的に背反するのみならず、その運用の実情にも反しているものである。

8  (社団法人東京都宅地建物取引業協会の「売買実例図」について)

被告主張の「売買実例図」は、要するに宅地建物取引業者の団体が業者の業務上の便宣のため作成したものにすぎず、その収集資料も作成者の資格、能力も全く不分明であり、もとより売買事例についての具体的内容・売買物件の明細等全く判明せず、とうてい客観的公正を保持するものではなく、評価のための資料たり得ないものである。

「売買実例図」は、公正中立な公的機関が適正な地価形成に寄与する目的をもって公的資格保持者による資料収集・選択の結果を基として判定公示した「公示価格」ないし「基準価格」とは、全く異なるものである。

現に鑑定評価の実務においては、不動産鑑定士はもとよりのこと、土地収用その他の行政実例においても「売買実例図」が評価の根拠資料として使用されることなど存しない。

かかる客観的公正及び信頼性の点において、多大の疑問の存するものをもって、課税のための根拠とすることは恣意的かつ不当なものというべきである。

9  (本件土地についての売買実例について)

本件土地についてのオリンピック興業とハイネス恒産間の売買実例なるものは、右両会社とさらにオリンピック興業の全株式を保有する愛和建設の三者間において、販売目的に資するためかあるいはその他何らかの目的をもってなされた取引である疑いが極めて濃厚であり、したがって外形上表示された契約書、領収書等に信を措くことができないことは、右土地売買の経緯及び方法が異常かつ複雑を極め、登記簿の記載と対比してみても甚しく不可解、不自然であることからも明らかに窮うことができるものである。

それとともに、もし仮に被告主張のごとく現実に右価額によりなされた売買実例であったとしても、もともとハイネス恒産は、マンションの分譲販売を営業目的とする会社であり、オリンピック興業との前記売買も、オリンピック興業が所有地上に建設するマンションを自ら分譲販売する目的をもって買い受けたものなのであるから、すでにその経済的価値は上昇し、土地の価格も純粋な土地価格そのものではないものである。

すなわち、右土地売買は、地上建物と一体として売買されたものであり、その売買価格なるものもマンション建設・分譲販売による利益を予想し、これを織り込んだものであることが推測されるのである。

したがって、これが特殊事情による取引であることは明白であり、正常取引による正常価格を表示するものでないことはいうまでもないところである。

また、被告は、本件土地について岩崎学生寮を売主、愛和建設を買主とするオリンピック興業の株式売買が成立しており、その株式売買の交渉においては本件土地を一〇億五〇〇〇万円、一平方メートル当たり四〇万〇〇一九円として算定しているものであると主張するが、右売却価額は優に時価の倍以上という法外な価額であり投機的価値を予想した異常価格として正常価格から遠くかけ離れたものであることが明らかである。

10  (被告主張の取引事例について)

被告は昭和五一年における目黒税務署管内の二つの取引事例をあげて、その平均取引価額が被告の認定価額を上まわる旨主張するが、右二件の事例地は、以下述べるとおり本件土地とは地域性、環境性又は収益性を甚しく異にする土地であって、比較事例としては、全く不適当というべきである。

すなわち譲受人株式会社サッポロライオンの事例地は碑文谷の高級住宅地の一画にあり、かつ都内主要幹線道路である目黒通りに近接し、碑文谷交差点近く二〇メートルの近距離に銀行はじめ商業地が存し、八メートル、五メートルの道路に面する東南の角地にあって、地形・地積も最適であり、地域性、環境性の点で抜群の土地である。

また譲受人多田哲也の事例地は都内有数の高級住宅地である柿の木坂住宅地のほぼ中心に位置し、都内主要幹線道路である環状七号線及び目黒通りに近接し交通・街路条件に優れているとともに、閑静な環境を保持しており、周辺はいずれも二〇〇坪以上の庭をもつ豪邸が存するものであり、右土地もその一つであって庭内には樹木、庭石はじめ室内プールも設置してある。

地域性、環境性の点において、第一種住宅専用地域であり、六メートル、四メートルの道路に面する東南の角地であって、地形・地積も最適で抜群の最高級地であることは明白である。

以上のとおり右二件の事例地は本件土地とは地域性、環境性又は収益性を甚しく異にする土地であるのに、ことさらかかる差異を無視し比較事例とすることは全く不適地、不適切という他なく、その取引価額が本件土地価額を推認せしめることなどあり得ないものである。

11  (被告が修正評価の基礎とした公示地について)

被告は日興鑑定、三菱鑑定、有山鑑定及び売買実例図につき更正理由中において「以上の修正評価額の基礎とした公示地」として「目黒区三田二-一-九」をあげ、また本訴においても本件土地の近隣地域の標準地として右公示地をあげている。

右公示地は、日興鑑定においても「公示地」として挙げられている土地であるが、目黒区三田の都内屈指の高級住宅地内に位置しその並びにはポーランド大使館をはじめ豪邸が立ち並んでおり閑静な環境を保持している地域性・環境性において抜群の最高級住宅地である。

したがって、右公示地は、本件土地に比べはるかに高地価の土地であって、その価格をもって本件土地の評価を推しはかることなどとうてい不可能である。

もともと本件土地が準工業地域内にある中小工場、小住宅、倉庫の混在する普通住宅地域に属するに拘らず、第一種住居専用地域内にある高級住宅地域に属する右公示地を「修正評価額の基礎とした公示地」あるいは標準地に採用するという根本的かつ明白重大な誤りを犯したがため、本件のごとき根拠のない処分をなすに至ったと考えられるのである。

もし公示価格をとるとするならば、本件土地に地域性、環境性の点でより類似する目黒区下目黒五-五-五又は目黒四-一九-一九によるべきである。

12  (本件土地の地積について)

ところで、本件土地の地積につき、被告は二六二四・八七平方メートルであるとする。しかし、本件土地の公簿上の面積は、二五四二・九九平方メートルであり、本件株式譲渡当時においても当事者間において右面積を前提として価格を算定したものなのであるから、あくまでも取引当時の当事者の認識としては右公簿上の面積によるべきである。

のみならず、右譲渡後においても地積訂正が行われていないことよりすれば、一層このことは首肯し得るものと思料する。

13  (本件株式譲渡の経緯等について)

(一) 法人税法における低額譲渡に当たり寄付金として取り扱かわれるのは、これが贈与と認められることを要件としていることはもちろんであるが、更に当事者において不等価取引の認識が存したこと又はかかる取引をなすべき合理的理由ないし経済的合理性が存しないことを要件とすべきものである。

しかるに、本件においては、正に経済的合理性が存する取引であって、贈与に当たらぬことはもちろん、当事者においてかかる不等価取引の認譲は全く存しなかったものである。

そこで、このことを明らかにするため、岩崎学生寮設立の趣旨目的と活動状況、オリンピック興業設立の趣旨目的及び原告より岩崎学生寮に対しオリンピック興業の全株式を譲渡した理由目的並びに岩崎学生寮が愛和建設に右株式を譲渡するにいたった経緯を述べる。

(二) 岩崎学生寮設立の趣旨目的と活動状況について

岩崎学生寮は、多年にわたり鹿児島県の教育振興に情熱と努力を傾注して来た岩崎与八郎が、郷土の逸材が経済的な事情から野に埋もれることを痛恨し東都の最高学府への進学に最大限資することを目的として設立したものであり、昭和二六年創設以来学生寮の運営奨学金貸与、市町村への奨学基金寄贈、海外留学生の派遣・受入等の事業を運営しているものである。

ちなみに学生寮の創設に至った端緒は、終戦後の荒廃した首都において、極度の住宅難に悩み学業に支障を来たしている上京学生の窮状を見るに忍びず、岩崎与八郎が私費を投じて設立したものであって、我が国における最初の私設学生寮である。

創設後三〇年を経過した今日迄に、すでに七〇〇名余の卒業生を世に出し、各界において有為な人材として活躍しているものである。

またこれとならんで毎年数百人の英才に奨学資金を貸与して来たが現在は各市町村に対し奨学基金として寄付し、各市町村において運用し育英事業に寄与しているものである。

更にまた、海外からの留学生のために諸外国におけるそれと比肩しうる外人留学生会館を設置し、外人留学生の住居の確保と学業への便益を図り、留学生を通じての国際交流と親善に多大の貢献をなしているものである。

かかる育英事業の一層の拡充発展を図るためには、何よりも財政基盤を強固にする必要が存することはもとよりであり、そのためには資産内容を充実しなければならないものであることはいうまでもないところである。

(三) オリンピック興業設立の趣旨目的と現状

オリンピック興業は、昭和五〇年九月二三日不動産管理業を事業目的として資本金三〇〇〇万円をもって設立されたが、右設立は原告よりの現物出資と財産引受とを主としてなされたものである。

これよりさき昭和四八年頃より原告は、その営む製菓販売が売行き不振のため製菓販売部門を廃止し転換を図ることとなり、同五〇年四月頃より目黒工場閉鎖及び新宿、銀座の店舗を閉鎖したものであるが、右目黒工場跡の建物敷地を岩崎学生寮が建設を企図している外国人留学生会館として利用する計画がたてられたのである。

そこで原告所有の前記目黒工場跡の土地建物を岩崎学生寮の外国人留学生会館として活用を図る目的をもって、右不動産の効率的な管理運営に当たらせるためにオリンピック興業が設立されたのである。これは、もともと右不動産上の建物・機械設備その他の構築物除却整理、建物の新築及びその後の保守管理等の業務を財団法人である岩崎学生寮がなすことは、とうてい不可能であるため専らかかる不動産管理業務に当たらせる目的でオリンピック興業が設立されたものなのである。

しかしてかかる目的からして、当初の設立は原告よりの出資によったものの、設立後において岩崎学生寮が増資に応ずることがあらかじめ約束されていたものであり、将来適当な時期において原告保有のオリンピック興業の株式を岩崎学生寮に譲渡するという目途も存したのである。

設立後の昭和五〇年一一月オリンピック興業は、目黒工場跡の本件土地を所有者の岩崎福三より代金一億円で買い受ける旨の契約をなしたが、右土地売買代金については税務当局よりほぼ時価相当額と認められている。ただし右売買代金は、未払いのまま昭和五一年一〇月に増資がなされた後で支払いがなされたものである。

(四) 原告より岩崎学生寮にオリンピック興業の全株式が譲渡された理由及び経緯について

前述のごとき経緯により原告により目黒工場跡の不動産の管理業務に専ら当たるものとしてオリンピック興業が設立運営されたものであるが、もともと右オリンピック興業の株式は岩崎学生寮に帰属せしめることが本来の趣旨であるため、原告より岩崎学生寮に右株式を譲渡することとしたのである。

原告としても会社の経営状況の悪化から右株式を引続き保有することが困難となったため早急にこれを処分する必要に迫られていた。

ところで、右株式譲渡については、一株の額面は五〇〇円であるが、非上場株式のため価額をいくらに定めるべきかについては全く明らかでなかったので、原告会社は昭和五一年七月山一証券引受部に対し「右株式の売買をなすこととしたいので、価格を算定してもらいたい」旨依頼した。

これに対し同社より右株式一株当りの評価額として金一一〇〇円と評価する旨の算定結果の回答がなされたものである。

そこで、右評価額に従い原告より昭和五一年九月三〇日にオリンピック興業の株式六万株を一株一一〇〇円代金六六〇〇万円で岩崎学生寮に対し譲渡したものである。

(五) 岩崎学生寮によるオリンピック興業の増資払込みについて

岩崎学生寮は、前記オリンピック興業の全株式の譲渡を受けた後昭和五一年一〇月一三日同社より一株一一〇〇円で時価発行された新株五万株を引き受けし、増資金五五〇〇万円を払い込みした。

次いで同年一〇月二二日右同様の発行価額で同じく新株五万株の引き受けをなし、増資金五五〇〇万円を払い込みした。

オリンピック興業は、右増資による一億一〇〇〇万円中よりさきに岩崎福三より買い受け未払いであった本件土地代金一億円の支払いをなしたものである。

さらに、同年一〇月二九日岩崎学生寮は、オリンピック興業が一株一一〇〇円で時価発行した新株一万六〇〇〇株を引き受けし増資金一七六〇万円を払い込みした。これらは先の増資金中より土地代金を支払った残金と合わせ諸経費の支払いに充てる目的であり、その本来の事業目的の実現に向けて着々と進みつつあった。

岩崎学生寮としては、前述のとおり目黒工場跡の土地建物を外国人留学生会館として活用を図るため準備を整えつつあったものである。

(六) 外国人留学生会館建設敷地の変更について

ところが岩崎学生寮の世田谷鳥山の学生寮の隣地約一〇〇〇坪の土地について、永年にわたり不法占拠者との間に土地明渡しの訴訟が係属し、右明渡訴訟については相手方が強硬に借地権ないし居住権を主張していたため解決は困難を極め訴訟の勝敗の帰趨も容易に断じ難いものがあったところ、昭和五二年五月頃より急転直下解決の気運が生じ、近々のうちに右土地の明渡しが実現することが確実となった。

ここにおいて、岩崎学生寮としては右明渡土地約一〇〇〇坪の利用計画を練ったあげく、これが外国人留学生会館に最適であるとして急遽目黒工場跡に設置を予定していた外国人留学生会館を右明渡土地に設置することに方針を変更した。

これは、学生寮に隣接して外国人留学生会館を設置することにより外国人留学生と在寮学生との間に交流が頻繁に行われ国際親善の実を一層上げることが期待されることと勉学のための環境としては鳥山の学生寮隣地の方が目黒工場跡地よりもより好適であると判断されたことによるのである。

そのため岩崎学生寮は、世田谷鳥山に外国人留学生会館の建設の計画を樹立し、現在推進しつつある。

ところが、昭和五一年暮から翌五二年にかけ目黒工場跡地に買手が殺倒した。これは不動産業者が工場閉鎖になったことを聞知し、右土地がマンション用地に最適と考え売渡し方を慫慂して来たのであった。

これに対し岩崎学生寮としては、右土地に外国人留学生会館建設の計画があるので、売却の意思は全くないと断っていた。

ところが前述のとおり世田谷鳥山の土地明渡しが思いもかけず実現し、外国人留学生会館を右土地に建設する旨方針が変更されたことに伴い、目黒工場跡地についての利用計画がさし当たり存しなくなったところに、たまたま愛和建設より優に時価の倍以上に当る一〇億五〇〇〇万円という価格で買入れたいとの申入れがあったのである。

岩崎学生寮としては、もともと外国人留学生会館建設敷地として取得したものであり、右会館建設敷地としての利用計画はなくなったものの、引続き将来の学生宿泊施設建設のため保有するつもりであり、売却の意図は存しなかったものであるが、右のような愛和建設興業よりの買入申入みが時価の倍以上という法外な価格であったがためこの機会に右価格で売却処分し、右代金をもって外国人留学生会館をはじめ諸施設の建設・整備・拡充に充てるべきであると考えるに至ったものである。

愛和建設は、愛媛相互銀行の子会社であり銀行をバックにマンション業に参入したものであるが、当時は未だ実績、知識、経験等も不足していたとの評判があり、右申入価格にしてからが、正常をはるかに超えるものであって、時価の倍以上とみられるものであり、岩崎学生寮としても愛和建設がかかる高価格で買入れたいとの意向に内心驚きと危惧の念を抱いたが、同社は岩崎学生寮に対し是非とも売却してもらいたい旨執拗に懇請に及んだので、最終的にこれに応ずることとしたものである。

そこで、昭和五二年九月二〇日岩崎学生寮と愛和建設との間に岩崎学生寮の保有するオリンピック興業の全株式を価額一〇億五〇〇〇万円で譲渡する契約を締結するにいたったものである。

以上のように岩崎学生寮としてはもともと目黒工場跡地を保有するつもりであったところが、愛和建設興業よりの時価の倍以上という高価格での買受申入れがあったがため、外国人留学生会館の建設資金の捻出その他の財政上の理由からこれに応じ譲渡することとなったものであり、また、岩崎学生寮の愛和建設興業への譲渡価格は、すでに述べたとおり時価の倍以上とみられるもので、正常価格とは全くかけ離れたものだったのである。

(七) 被告の主張について

後記被告主張のうち原告と岩崎学生寮との人的関係、原告に係る出資関係は昭和五一年三月三一日現在で原告に係る出資関係は昭和五二年三月三一日現在でいずれも認めるが、かかる人的ないし資本的関係は、いずれもグループ内企業相互間の協力提携を深め第三者に株式が流出することを防止するという目的に出たものなのである。

なるほど原告と岩崎学生寮とが、いわゆる岩崎グループの一員として協力すべき関係にあることはいうまでもないが、さりとて独立の活動ないし営業主体であり別個の目的を有し、損益はすべて各主体にのみ独立して帰属し、かつ独自の法人格を有する両者間においては、相互間においても厳格かつ経済的合理性に合致した取引をなしているものであり、かかる経済的合理性を無視した取引など行われるはずがないのである。

五  原告の主張に対する被告の認否及び反論

1  (山一証券株式引受部の鑑定について)

原告主張の山一証券の株式評価がなされたことは認めるが、これは、山一証券株式引受部において、岩崎産業に評価の目的を明示されないまま依頼されたもので、同社の代表取締役岩崎与八郎(原告の代表取締役であり、岩崎学生寮の代表者でもある。)が経営する鹿児島交通株式会社が将来上場する場合に山一証券が幹事会社として引き受けしたいとの思惑から、株式評価の一方法(新株発行に際しての参考資料)として行った岩崎産業へのサービス(無料)にすぎないものである。

このことは、山一証券では、非上場の株式評価を依頼された場合、すべて株式評価依頼書により株式会社山一証券経済研究所にて責任をもってその評価が行われることとされているにもかかわらず、本件株式評価は右研究所で行われず、株式引受部で行われていることからも明らかである。

また、山一証券株式引受部における本件株式評価額は、相続税・贈与税における取引相場のない株式の評価方法に基づき、株式評価が行われたものであり、売買のためとか、大量株式移動のためという本件事例に妥当する評価ではない。

したがって、右株式評価書の評価額に基づいて決定された原告の本件株式の譲渡価額は、適正な資料に基づくものではなく失当である。

2  (山一鑑定の採用した路線価方式について)

原告は、山一鑑定の採用した路線価方式による価格は単に相続税・贈与税のみならず法人税を含む税法体系において一般に時価と承認されているのであるから、これに基づく本件土地の前記評価額は適正な時価と認められる旨主張する。

しかしながら、路線価方式による評価は、贈与税・相続税の課税目的に適合するよう精通者意見等を参考とした上定められるが、相当程度控え目な価格を算定することによって納税者の不利益といった危険を避けるとともに評価の均衡化を図っているものであるから通常の取引価格を反映しておらず、これが土地の現実の取引価格よりはるかに低額であることは公知の事実である。したがって右路線価方式による評価方法に基づきなされた本件株式評価額は、合理的な経済人の行為を前提として譲渡株式の価額を算定しようとする法人税の場合には適合しないことは明らかというべきである。

更に、原告は、相続税法における財産評価についてはその基本通達において時価を路線価方式により算定することと定めており、かつ、その時価とは課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合通常成立すると認められる価額、即ち客観的交換価値をいうものと解せられるものであるから、まさに税法一般において路線価方式に基づく時価算定が適用されるべきである旨主張する。

しかしながら、時価を論ずる場合、観念的には客観的交換価値とはいい得ても、客観的交換価値を現実化具体化するためには評価という手続を経なければならず、いかなる評価方法に基づいて時価を算定するかは各税法の課税目的等に従って決定されるべきものであり、相続税についてはその評価方法を基本通達において宅地につき路線価方式等によるとしているのであって(しかも、このことは通達において定められているのであって絶対的なものともいえない)、このことから直ちに他の税法においても路線価方式により時価を算定すべきであるということにはならない。

すなわち、法人税法における資産の譲渡益課税は当該譲渡について合理的な経済人の取引行為があることを前提とし、そこから得られる経済的利益に対し課されるものであるのに対し、一方相続税法における課税は取引によらざる相続あるいは経済的合理性の見地からは合理的とはいえない取引である贈与等により財産を無償で取得し利益を得たことに対し課されるものであって、おのずから両者は課税の趣旨、目的において異なるものがあり、非経済的行為により取得した利益に対し課税するという相続税等の課税目的に適合するように定められた「路線価価格」は、原告も認めるように取引価格の実勢よりも低目に評価されていることからも、到底右路線価方式は経済的合理的取引行為により取得した利益に課税するという法人税法上の時価評価の方法として採用することはできない。

なお、法人税法基本通達一三-一-二「使用の対価としての相当の地代」の趣旨は、「相当の地代の額」の計算上相続税評価額を土地の更地価額として認めるだけのことであり、土地の売買取引一般について相続税評価額によることを認めるというものではない。

3  (本件株式評価における建物・設備等の評価及びディスカウントについて)

原告は、本件土地上の建物、設備、造作、構築物及び機械はいずれも老朽化し全く無価値となっているばかりでなく、かえって取毀・搬出による除去費用が必要とされるものである旨主張する。

しかしながら、建物、設備、造作及び構築物は原告が昭和五〇年九月二三日オリンピック興業株式会社の設立に際し、帳簿価額二二〇七万八二一六円で現物出資したものであり、また、機械は同年一〇月三一日に原告から帳簿価額一二四二万五八八五円で引き継がれたものであるから、本件株式が譲渡された昭和五一年九月三〇日において、これらの資産が無価値であるとは認められない。

また、純資産方式における株式の評価方法は、株式発行法人の純資産価額に基づいて評価するものであり、原告の正当と主張する山一鑑定が本件株式評価において休業中を理由として純資産価額から三〇パーセントを減算したのは根拠を欠くものである。すなわち、機械装置がその有する主な資産である休業中の法人の株価評価を稼動中の機械を基準として評価したような場合はともかくも、土地が資産のほとんどを占めている本件の場合には、休業中を理由として減算する必要はないし、また、法人税法上資産の評価損が認められるのは、資産につき災害等の理由から、当該資産の価額がその帳簿価額を下まわることとなった場合において、法人が当該資産の評価換えをして損金経理により帳簿価額を減額した場合は認められるが(法人税法三三条)、本件の場合、オリンピック興業は所有資産について評価損を計上する理由もなく、また、損金経理により資産の帳簿価額を減額した事実もないのであるから、原告主張のように休業中を理由として資産価額から三〇パーセントを減算する根拠は全くない。

4  (日興鑑定について)

(一) (日興鑑定の意図・目的について)

日興鑑定の依頼目的は、「売買を目的とし国土利用計画法二三条に基づく屈出申請に当りその価格の参考としての適正価格」を算出することにあった。

すなわち、国土利用計画法二三条二項一号イによれば、「都市計画法第七条第一項に規定する市街化区域にあっては、二千平方メートル」以上の土地の売買契約を締結する場合には、都道府県知事への屈出が必要とされるところ、ハイネス恒産が本件土地(二六二四・八七平方メートル)を愛和建設から購入するに当たり、右法律上の要請から本件土地の時価評価を求めたものである。

したがって、右届出は、建設したマンションの分譲価額の参考価額を求めたものではなく、また右法律上の要請からすれば、時価をはるかに上まわる価額の鑑定書を提出する必要は全くない。国土利用計画法二三条の屈出において、時価をはるかに上まわる鑑定書を提出するのが常套手段であるなどということはおよそあり得べからざることであって、何ら根拠のないものであり、右鑑定書がかかる目的で作成されたとする主張は全く事実に反するものである。

(二) (日興鑑定の前提とする本件土地の使用目的について)

不動産鑑定評価に当たっては、その不動産についての最有効使用の状態を判定し、それを前提として価格を評価するのが原則である(不動産鑑定評価基準第3の(四))。

それは、「不動産の価格は、その効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(最有効使用)を前提として把握される価格を基準として形成される」からである。すなわち、その不動産の最有効使用、換言すればその不動産を利用することによる利潤が最大となるような使用方法を前提として最も高い価格を提示することができる需要者がその不動産を取得することとなるのである。

本件土地の最有効使用は、日興鑑定では、「中層マンション用適地」、有山鑑定においても「鉄筋コンクリート造大規模中高層マンション適地」、また、三菱鑑定においても「一括しての集合住宅用地」とそれぞれ判定されていることからも、本件土地の最有効使用が「一括としての中層マンション用地」であることは明らかである。

したがって、最有効使用と現実の使用目的が相違するからといって、鑑定評価を本件土地評価額の算定根拠となし得ないとする原告の主張は失当である。

(三) (日興鑑定の選択した取引事例について)

原告は、日興鑑定の採用している取引事例は比較のために全く不適切であり、地域要因、個別的要因の比較も恣意的である旨を主張する。

しかしながら、取引事例の選択に当たって鑑定評価上とくに重要なものは用途的な観点からの地域区分であり、評価する土地と同一の用途(地域)の取引事例を選択する必要がある。

すなわち、日興鑑定は、本件土地の最有効使用が中層マンション適地であることから、マンション用地としての取引又はその類似性を判断して取引事例を採用したものであり、原告主張のように、ことさらに高価格の取引事例のみを採用し低価格の取引事例を除外した事実はなく、原告が不適当として例に挙げた事例地Bも、それがたとえ商業地であったとしても、その土地の最有効使用がマンション用適地である場合これを取引事例として採用するのは、当然のことなのである。

右事例地Bは、商業地にあってもその土地の上に中層建物を建設した場合、商店等に使用できるのは一階部分であり、二階以上は、マンションとして利用されるマンション適地なのであるから、これを取引事例として採用することには合理性が認められるものである。

(四) (日興鑑定の比準事例地に関する補正について)

日興鑑定の地域要因、個別的要因の比較による補正は、適正に行われており、原告の主張は何ら根拠のないものである。

原告は、日興鑑定の取引事例の格差率につき修正をしているが、そもそも地域要因及び個別的要因の比較補正に当たっては本件土地の存する近隣地域と取引事例に係る不動産の存する類似地域との地域要因の比較を行うことにより、まずその地域格差を判定するとともに、次に対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を行ってその個別的格差を判断するのであるが、例えば、「交通接近条件」は、地域要因として補正されれば個別的要因としては当該地域内の補正であるから小幅に止まるべきところ、原告は事例地B及び事例地Cにおいて地域要因を大きく上まわる個別補正を行うなど、ことさら作為的に低い比準価格を作り出していることが明らかである。

(五) (日興鑑定の収益価格及び標準価格について)

日興鑑定における標準地の収益価格中の地域格差八〇分の一〇〇は、国土庁が定めた土地価格比準表により地域要因の比較中の収益事例地の総合判定一〇〇分の八〇に基づき合理的に補正したものである。そして行政的条件で収益事例地をマイナス五パーセント(一〇〇分の九五)修正しているのは、本件土地と収益事例地の容積率が三〇〇パーセントと同じであるが、収益事例地の接面道路幅員は四メートルと狭く、容積率三〇〇パーセント全部の利用ができないため、マンション用地としての価値が下がるからである。

一方有山鑑定は、日興鑑定と同一収益事例地を採用しながら、道路幅員の補正として収益事例地が二パーセント劣るとしたのみである。しかし、付近の道路は狭く、T字路等があること及び、国電目黒駅からは九〇〇メートル以上離れ本件土地より遠方にあることを考慮して収益事例地を補正すべきである。

また、還元利回りは、商業収益地(商業地として使用)においては年六パーセント、住宅収益地(住宅地として使用)においては年五パーセントが適正であるところ、本件土地は、住宅収益地であるから、日興鑑定が採用した年五パーセントの還元利回りが適正なものであるといえる。

なお、土地価格の上昇に伴い最近における還元利回りは次第に低下の傾向にあり、ちなみに三菱鑑定書においては、二・四パーセントを採用している程である。

一方、有山鑑定は、還元利回りを年六パーセントとしているが、確たる根拠はなく、鑑定人の判断によるものであると証言する。ところで、有山鑑定士は住宅地については年五パーセントで還元していたと証言しているから、収益事例地と本件土地が住宅地である以上、有山鑑定においても還元利回りは年五パーセントを採用すべきであったのに年六パーセントとしたのは、鑑定評価額を低くするためであることが推認される。

原告は、収益事例地に対して角地補正を行うべきであると主張するが、収益事例地は、角地ではない。更に、角地は直ちに収益に影響を与えるものではないから、収益価格を求めるに当たっては、通常角地補正を行わない。

以上のことから、日興鑑定が算出した収益価格二四万一一〇〇円は、合理的かつ適正に求められた価格である。なお、有山鑑定が算出した収益価格も還元率を適正な年五パーセントに修正すれば、二一万五〇〇〇円程度となる。

以上によって明らかなとおり日興鑑定の比準価格及び収益価格は、適正な取引事例が採用され、かつ、補正も合理的に行われており、これを基として比準価格八、収益価格二の割合で求められた標準価格二七万四〇〇〇円は合理的な評価結果といえる。

(六) (日興鑑定の地価公示地等との規準について)

日興鑑定が採用した公示地及び基準地は、本件土地の最有効使用が中層マンション適地であることから、立地条件等の類似性に留意して選定したものであり、地域要因及び個別的要因の補正についても合理性をもって適正に行われている。

原告が主張する地域格差の修正を各土地の路線価価格及び固定資産評価額の各対比によってなす方法は、算定評価と称されるものであり、鑑定評価とは異なるものである。不動産の評価とは個々の不動産の特徴により判断されるべきものであり、原告主張のような算定方法は合理的とはいえない。

なお、日興鑑定が参考にした、地元精通者意見は、地元マンション業者の土地仕入担当者の意見等で、実際に土地を購入する側の購入価格を表わすものであり、これを地元不動産業者の呼び値にすぎず、時価よりはるかに高い価格であるとする原告主張は、何ら根拠のない原告独自の見解にすぎない。

(七) (日興鑑定の対象地に関する個別的要因補正について)

本件土地の道路が三方路と側道にて四方路であることは明らかであり、日興鑑定が土地価格比準表に従って個別的要因としてプラス八パーセントの修正をしたのは道路による効用を勘案した合理的判断である。なお、三菱鑑定も四方路であることからプラス一〇パーセントとしている。

また、本件土地は、大規模画地であることは事実であるが、最有効使用は、中層マンションであり、面積が大きいことは、かえって価値を高めるものであり面大減価は行う必要がないのである。原告主張の建付減価の取扱いもその態様に応じた契約内容によりそれぞれ異なるものである。例えば、公共事業等の用地買収においては、建物の取りこわし除去運搬等の必要経費が土地の対価補償とは別に補償されることから建付減価は考慮されていないのである。

日興鑑定が本件土地の評価に当たり更地価格を評価しているのは、鑑定評価の条件として「現況対象地は工場敷地であるが、マンション建設計画に基づく整地後の更地価格を評定(独立鑑定評価)すること」と記載されているからであって、独立鑑定評価とは対象地が更地であると想定して鑑定評価を行うものであり、建付地を更地にする鑑定評価ではない。したがって、更地価格としての評価額に対して、更に建物等の除去費用及び整地費用等による建付減価補正を施し、その価格を減少させて評価するのは、適正な評価といい得ないのである。

さらに、本件株式譲渡時、本件土地も本件土地上の建物もオリンピック興業の資産であり、また本件株式の譲渡にあたり右建物を取壊すこともなかったのであるから、本件土地の評価において建付減価を行う必要は全くない。

5  (両鑑定について)

(一) 両鑑定は、後述のとおり昭和五〇年一一月一八日の本件土地の底地価額が一億円であったことを前提とし、当額金額を導き出すべく、種々の操作が加えられ、鑑定に要する日数が短期間のため現地確認も満足に行われず、採用した基礎資料、評価額算定方法には、重大な誤りが存している。

すなわち三菱鑑定は昭和五三年七月三〇日に、また有山鑑定は昭和五三年七月一八日に、それぞれ昭和五〇村一一月一五日現在の本件土地の底地を評価したものであるが、二六二四・八七平方メートルにも及ぶ広大な本件土地は、別紙「本件土地及び本件株式に関する取引等の経緯」に掲げたとおり昭和五一年初めから一括して譲渡すべく宅地の流通市場に持込まれていたのであって、両鑑定は本件土地の実質的所有者が原告ないし原告関連法人の岩崎学生寮から第三者に移った後に依頼を受けて作成されている。

両鑑定は、原告代表者岩崎与八郎の長男であって、原告の取締役岩崎福三が昭和五〇年一一月一八日(両鑑定の価格時点の三日後)に本件土地の底地を一億円でオリンピック興業に譲渡したことについて、時価の二分の一以下の価額による低廉譲渡(所得税法五九条一項二号、同法施行令一六九条により低廉部分も譲渡収入があったものとして課税対象となる。)ではない根拠資料として、岩崎産業株式会社の木村専務が熊本国税局に提出したものなのである。

(二) 両鑑定は、本件土地の最有効使用をいずれも一括としての中層マンション用地と認めながら、三菱鑑定は「分割しての事業所用地」、有山鑑定は「一五〇平方メートル程度の区画に鉄骨三階建中規模工場」用地をも最有効使用に掲げ、本件土地の評価につき分割を前提として低評価している。

しかしながら、両鑑定は、原告(又はオリンピック興業)において、前述のとおり本件土地を一括して譲渡する意図があること(実際にも一括譲渡されている。)、工場の効外移転等社会情勢の変化及び本件土地を一〇数区画に分割した場合の工場、事業所用地としての譲渡が困難であること等を考慮せず、更に、評価が行われた当時、一括としての本件土地上にマンションが建設中であったという事実をあえて無視し、評価額の低い事業所用地を最有効使用としており、両鑑定には最有効使用の適用誤りがある。

すなわち、マンション敷地としての利用成熟過程にある地域にあっては、一戸建住宅等の敷地との比較において、本件土地のような広大地と判定される画地であっても、地積過大による面大減価を行う必要はなく、また、マンション用地は土地の有効な高度利用を図るものであり、それに応じた評価をすべきものであって、両鑑定が最有効使用をマンション用地と判定しながら、本件土地の評価につき面大減価を行ったのは合理性がなく、意図的に鑑定価額を低くしているし、また両鑑定は本件土地の最有効使用をマンション適地と判断しながら、取引事例に、マンション用地より価格水準の低い一般住宅地、工場用地など最有効使用と異なるものを採用しているのは適当とはいえず、そのために両鑑定における鑑定価格が低くなったのではないかとも推測されるのである。

(三) 鑑定評価上取引事例の採用は、評価する土地(本件土地)と同一の地域、種類、用途のものを現地確認の上選択し、更に採用しようとする取引事例の取引価額が個別的要因等によって影響されたものか否か等を考慮して合理的に選択し、補正を行う必要がある。

(1) 三菱鑑定の取引事例〈イ〉は、土地(更地)の売買であるのに、取引にはない建物価額二〇〇万円を土地価額から減算し、その結果、約四〇〇〇円低く評価している。

(2) 三菱鑑定の取引事例〈ロ〉は、昭和四九年三月の取引であるが、同一物件につき右取引の二ヵ月後の同年五月一一日に東京都目黒区に譲渡された事実が存するから、取引事例としては三菱鑑定の価格時点の昭和五一年一一月一五日により近い後者のものを採用すべきである。取引事例〈ロ〉の価額は二〇万二七〇〇円であり、採用すべき価額は二一万九四三〇円であるから、三菱鑑定においては差額の一万六七三〇円低く算定されている。

右事実について三菱鑑定を行った名村鑑定士は、「登記簿は見たと思います」と証言しながら、容易に前言を翻し「確認したかどうか覚えていません」と述べ、また、ずさんな三菱鑑定を糊塗すべく「固定資産税の課税台帳(注、東京都都税事務所の作成、保管)……が見易いもので……よく見るということがある……(右課税台帳は)遅れて記載になります」と証言するが、鑑定評価日の昭和五三年七月三〇日は、目黒区の購入日昭和四九年五月一一日の四年以上も経過後のことであって、右課税台帳には記載されており、更に、名村鑑定士は、目黒区の購入価額について、時価を反映したものである旨認めている。

すなわち、名村鑑定士は、取引事例〈ロ〉について、昭和四九年五月一一日の取引を知っていて、あえて低価額の取引事例を採用したか、十分な事実調査を行わなかったため取引事例の採用を誤った欠陥がある。

有山鑑定の取引事例(D)は、無道路地(袋路)かつ不整形地であるが、一方路幅員二メートル、長方形地と事実に反する記載があり、到底取引事例となるものではない。

同じく取引事例(F)は、新築建売住宅の売買であるが、更地の売買との不実記載がある。

有山鑑定士は、鑑定に当たり取引事例のうち、(C)、(D)、(E)、(F)及び(G)をはずして比準価格の試算を行った旨証言するが有山鑑定にその旨の記載はなく、右はずしたと称するものが記載されていること自体不自然、不合理であり、結局比準価格一八万円が導き出された根拠はないのである。

有山鑑定士は、現地確認など十分な調査に基づいて有山鑑定を行ったものではないため、証言に当たり取引事例等を現地確認し、確認の結果取引事例(C)ないし(G)をはずさざるを得なくなったものと推認される。

三菱鑑定の取引事例〈イ〉と有山鑑定の取引事例(H)(両者は同一である。)は、〈1〉利用価値の劣る極端な不整形地であり、〈2〉接する道路の幅員は約四メートルと狭く、片側出口は通行に不便なT字路であり、〈3〉最寄の国電目黒駅からは本件土地より遠く、〈4〉小さなメッキ工場などが隣接しているため、騒音、悪臭、排液など住環境が劣悪であり(本件土地には、道路をはさんで松下電送機器株式会社の工場が接するだけである。)、〈5〉本件土地と同様行政的条件は建ぺい率六〇パーセント、容積率三〇〇パーセントであるが、接する道路幅員が狭いため、建物の高度制限があり、容積率を三〇〇パーセントとして利用できない(マンション用地としては重大な欠陥である。)等本件土地に較べ種々の劣悪な条件がある。

そのため、本件土地周辺は、マンション用地としての需要が高く、本件土地上には九階建のマンションが建設できたのに、右土地上には五階建のマンションしか建設できず、右土地の取引価格は、本件土地に比し安価となっている。

右の事情から、本件土地と右土地とを比較する場合には、適正な補正をなすべきところ、三菱鑑定は、本件土地が地形で五パーセント、四方路で一〇パーセント勝るとしながら、逆に本件土地が面積過大であるとして一〇パーセント、目黒川の悪臭で五パーセント減算しており、結果的に全く同一条件の土地であると判定している。

しかしながら、目黒川の悪臭について、目黒川からの距離は本件土地と右土地では大差なく、右土地が利用価値の劣る不整形地であることの補正率五パーセントと同率の補正を見い出す合理的根拠はない。また、面積過大については、本件土地の最有効使用はマンション用地と認めているのであるから、減算する必要性は全くないのである。

本来、地域要因、個別的要因の比較は、鑑定評価の対象となった本件土地と鑑定に採用した取引事例地の現地を確認しなければできないはずである。

しかるに、名村鑑定士は、三菱鑑定に、鑑定評価日において、本件土地の上には、昭和三一年頃建築された木造平家建の工場と昭和三七年頃建築された鉄筋コンクリート造三階建の宿舎が存在する旨記載し、実際に現地確認をしたときにも確かにあった旨証言しているが、名村鑑定士が本件土地の現地確認をしたと称する昭和五三年七月三〇日には、本件土地の上の建物はすべて解体されてなくなっていたものであって、有山鑑定士が昭和五三年七月四日に現地確認をした際でさえ、「建物のうち木造部分は解体作業が完了し、鉄筋コンクリート造りについては解体作業中で亦解体に困難を伴う下部約二・八メートル、頂上部約二メートル、高さ約二八メートルの大煙突が解体未了となっており、敷地内は瓦礫が山積みしている状態」だったのである。

右事実等から、名村鑑定士が本件土地及び各取引事例地の現地確認をしないで鑑定評価を行ったことは明らかであり、当初から鑑定評価額を一億円と予定し、それに合致させるべく三菱鑑定記載の種々の補正を行ったものであることが推認できる。

なお、土地価格比準表(国土庁土地局地価調査課監修)に定める価格比準方式によれば、比準価格の算定は「基準地の価格×地域要因の格差率×個別的要因の格差率」という算定式により算定されるべきところ、有山鑑定においては、地域要因、個別的要因の区別をせず「基準地の価格×(地域要因の格差率+個別的要因の格差率)という誤った算定式を採用して比準価格を算定しており、それが鑑定価格を低価格とする原因になっているのである。

三菱鑑定は、本件土地の個別的要因として目黒川の悪臭を掲げ、本件土地の価格からマイナス五パーセントの修正を行っているが、そもそも三菱鑑定は本件土地と取引事例地とを対比し、〈1〉地域要因の比較と〈2〉個別的要因の比較とを行ったものであり、環境条件としての地域要因の比較の中で既に一〇パーセントの補正をしているにもかかわらず、更に個別的要因として五パーセントの修正を重ねて行っている。

すなわち、名村鑑定士は、前述のとおり本件土地の現地確認をすることもなく、周辺の騒音と目黒川の悪臭を理由として何の根拠もなく一五パーセントにも及ぶ修正をしたものであって、合理的評価とはいえない。

有山鑑定では、右土地が不整形地であることを何ら記載せず、補正も行っていないため、あえて不合理性を指摘するまでもないが、目黒川の悪臭により三パーセント、目黒川に隣接するとして四パーセントの計七パーセントを本件土地から減算している。有山鑑定士は、河川の減価要因として、氾濫及び川、橋の位置からの発展性の阻害を挙げるが、右土地と本件土地に氾濫の場合の被害に差があろうはずはなく、また国電目黒駅へ向かう大鼓橋には本件土地の方が近接しているのであって、減算すべき合理的根拠はない。

また有山鑑定は、その鑑定評価の条件として「建物及びその敷地である宅地の結合により構成されている場合において、その不動産の構成部分である土地のみを更地として評定する」と独立鑑定評価であることを明らかにし、本件土地の更地価格を評価しながら、その評価額から更に建物等の除去費用及び整地費用を控除しているのは誤りであり、このことも有山鑑定の評価額が低くなった一因となっている。

なお有山鑑定の取引事例地〈C〉は、取引事例として収集した社団法人日本不動産鑑定士協会の取引事例カードに、「売急ぎ三パーセント程度」と記載されていたにもかかわらず、何らの補正もされていない。

以上述べたとおり、三鑑定評価中における取引事例比較法による比準価格において、日興鑑定の二八万二七〇〇円は他の有山鑑定の一八万円及び三菱鑑定の一六万円と比較して高価格を示していることは事実であるが、有山鑑定及び三菱鑑定にはその基礎資料の収集、評価方法において前述のような疑問があり、そのために、鑑定評価額が低くなったものと推認され、日興鑑定における評価額が最も合理的かつ適正なものといえるのである。

6  (公示価格より算出した適正価格について)

原告は、国土庁の発表した公示価格及び都道府県知事によって調査公表された標準価格によっても、両鑑定の評価額が適正価格であることが裏付けられる旨を主張する。

しかしながら、公示価格等は、取引の一つの指標にすぎず、取引価格の実勢を表わすものでないことは公知の事実であるから、右価格に比準補正を行ったとしても適正な時価は算出しえない。

しかも、原告が採用した公示地と基準地は低層住宅地に存し、本件土地の最有効使用である中層集合住宅地とは異なるものであり、到底基準の対象とはなり得ないものである。

また、右公示地及び基準地は有山鑑定がその鑑定評価に当たり採用したものであり、公示価格及び標準価格より算出される価格が右鑑定評価とほぼ合致するのは当然であり、それをもって右鑑定評価が適正妥当なものであるとする原告の主張が失当であることは論を待たない。

7  (社団法人東京都宅地建物取引業協会の「売買実例図」について)

社団法人東京都宅地建物取引業協会は、宅地建物取引業法七四条一項に基づいて設立されたものであり、東京都内の宅地建物取引業者約一万名(不動産鑑定士相当数を含む)を会員とし、「宅地建物取引業の適正な運営を確保し、業界全般の社会的地位の向上と不動産流通の円滑化推進をはかり公正な取引慣行を確立し、もって公益の増進に寄与すること。」を目的としている。

右協会が作成した「売買実例図」とは、「東京都地価図」及び「東京都地価図別冊地価表」のことであり、同協会の事業として全会員組織を動員し、不動産取引における専門知識と経験を結集して調査し作成されたものである。調査にあたっては、特別部会を設置し、地価図作成要領に基づき一五五人の委員を含む都内全域の九〇〇余名の会員を動員して三ケ月にわたる日数を投入し、日常の取引事例をもとに実勢価額を調査したものである。特に不動産鑑定士七〇名による特別委員会により調査、調整が行なわれており調査日現在の各地域における時価を表示したものといえるのであって、十分信頼しうるものであり、右「売買実例図」が時価をかなり上まわるいわゆる呼び値を示すものとする原告の主張は何ら根拠がないものである。

もっとも本件土地の面積は二六二四・八七平方メートルと広大であるが、右協会作成の東京都地価図等の基礎資料は二〇ないし五〇坪(六六ないし一六五平方メートル)の土地価格から求められており、また、本件土地の近傍類似地の取引事例の地積も七〇〇平方メートル程度であって、本件土地と比較した場合、地積の類似性に若干欠ける。

しかしながら、右評価から求められる価格二三万四三六一円及び二二万三三八七円は、本件土地の分割を前提とする両鑑定の価格一六万六〇〇〇円及び一四万四九五六円を大巾に上まわり、右両鑑定の評価がいかに不合理なものかという反証になるというべきである。

8  (本件土地についての売買実例について)

原告は、被告の主張した本件土地についての売買実例における土地価額は、現実取引において到底あり得ない価額であり、仮に、契約書上に右価額が謳われていたとしても、それは、単なる外形上のものにすぎず、実際の取引価額とは異なるものであるから、右売買実例に関する土地売買契約書の信びよう性は、土地登記簿の記載内容の不自然、不可解さより見ても甚だ疑わしい旨主張する。

しかしながら、右売買実例による一平方メートル当たり四〇万八三五六円という取引価額は、土地売買契約書第三条(売買代金の支払方法)に基づき、買主たるハイネス恒産が、昭和五四年八月三一日に売主たるオリンピック興業の代理人である愛知建設に対して支払った八億一〇四五万円についての一平方メートル当たりの価格であり、右取引は、右契約書及び領収書が存在していることからしても、現実に右価額によりなされた売買実例であることに疑いはない。原告が主張するように本件土地登記簿の記載内容が複雑であるとはいえ、登記簿の記載が常に実体を表示するものでないことは公知の事実であることからしても、右登記簿の記載内容の複雑さから右売買代金が仮装されたものであるとは到底いえない。したがって、原告の右主張は独自の推論にすぎず、余りにも牽強付会に過ぎるものというべきである。

更に、原告は、右売買実例価額は、マンション建設・分譲販売による利益を予想し、これを織り込んだもので、純粋な土地価額ではない旨主張する。

しかしながら、本件土地については、右売買実例のほか、その売買の約一年前の昭和五二年九月二〇日に岩崎学生寮を売主、愛知建設を買主とするオリンピック興業の株式売買が成立しており、その株式売買の交渉においては本件土地を一〇億五〇〇〇万円、一平方メートル当たり四〇万〇〇一九円として算定しているのであって、この点に照らしても、ハイネス恒産の買入価額一平方メートル当たり四〇万八三五六円は、正常な取引によって成立した適正価額であるといえるのであるから、原告の右主張は失当である。

9  (被告主張の取引事例について)

原告は、被告主張の二件の売買取引事例地について、本件土地とは地域性、環境性又は収益性を甚しく異にするから比較事例としては全く不適当であると主張するが、被告は、土地の評価に当たり、当該土地の所在、面積、形状等が類似する土地の取引事例の相当数について、その平均的な取引価額を算定し、それを評価の基礎に採用したものであり、この結果、個別の取引において存在した特殊事情は、その平均的な数値の中に吸収され捨象されるから、右数値には平均値としての合理性が認められるのである。

10  (被告主張に係る本件土地の近隣地域の標準地の公示価格について)

原告は、公示価格をとるとするならば、被告が示した公示地目黒区三田二丁目一番九ではなく、目黒区下目黒五-五-五又は目黒四-一九-一九によるべきである旨主張する。

しかしながら、被告の公示地の選定に当たっては、本件土地が中層マンション適地であることから、立地条件等の類似性に充分留意して行ったのであり、原告が右に主張する公示地は、低層住宅地に存し、本件土地の最有効使用である中層集合住宅地とは異なるものであり、到底基準の対象とはなり得ないのであるから原告の右主張は失当というべきである。

11  (本件土地の地積について)

原告は、本件土地の価格は公簿上の面積を前提として算定したものであるから、あくまでも取引当時の当事者が認識していた公簿上の面積によるべきである旨を主張する。しかしながら、本件株式の評価は、純資産価額方式によって評価するものであるから、その算定の基礎となる土地の面積は実際の面積によるべきであり、被告が本件土地の地積を実際の面積である二六二四・八七メートルとしたのは適正である。

12  (オリンピック興業株式譲渡の経緯等について)

(一) 原告は、本件株式の譲渡は、経済的合理性のある取引であると主張する。

しかしながら、法人税法上、法人が資産の譲渡又は経済的利益の供与をした場合に、その対価が、その時の時価(経済人の自由な取引関係を前提とした通常の取引価額)に比して低いときには、時価との差額のうち、実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は寄付金の額に含まれるものとされている(法人税法三七条六項)のであって、この規定が適用される典型的事例は、人的・資金的結合が強く密接な関係を有する会社相互間等において、共通した経済基盤にたち、統一された経営意思のもとに、経済的合理性を無視した売買、役務の提供、資金の援助等が行われる場合であり、本件はまさにこのような場合なのである。

本件の場合、被告の認定した本件株式の一株当たりの株価三八〇五円、総額二億二八三〇万円と原告が岩崎学生寮に譲渡した価額、一株当たり一一〇〇円総額六六〇〇万円とを比較すると、後者が一億六二三〇万円も低額であるがこの額は次に述べることから、原告の岩崎学生寮に対する寄付金に該当するものである。

(二) 原告と岩崎学生寮の両法人は、本件取引時において、次表〈1〉のとおり人的に、次表〈2〉及び〈3〉のとおり資本的に密接な関係があり、また、原告は岩崎学生寮に対し関係会社として昭和五一年一〇月三一日現在で一億三〇四九万円を貸与しており、同五二年一〇月三一日現在では逆に関係会社として一億五七〇六万三七五〇円の貸与を受けるという金銭的にも極めて密接な関係にある。更に、両法人の代表者である岩崎与八郎は、原告に絶大なる支配力を有していたので、その支配力をもってすれば原告に本件株式を低額で譲渡させることは容易な状況にあった。

〈1〉 原告と岩崎学生寮との人的関係

〈省略〉

〈2〉 原告に係る出資関係(昭和五一年三月三一日現在)

〈省略〉

(注) 右記法人の代表者はすべて原告代表者岩崎与八郎である。

〈3〉 原告に係る出資関係(昭和五二年三月三一日現在)

〈省略〉

(注) 右記法人の代表者はすべて原告代表者岩崎与八郎である。

また、岩崎学生寮の理事が原告代表者岩崎与八郎を含め同人の親族で占められていることから、岩崎与八郎は、岩崎学生寮の課税上の優遇措置(岩崎学生寮は公益法人であるので譲渡収入が非課税扱いとされる。)を利用して、原告の法人税負担の大幅な軽減を図ったものと認められる。

その作意的意図の存在は、岩崎学生寮が、岩崎学生寮の寄付行為である学生寮の維持経営、奨学資金の貸与という本来の目的にもかかわらず、岩崎学生寮の関連法人に出資及び資金を供与している反面、本来の目的たる奨学資金貸与額が資産の割には極めて少ないこと及び岩崎学生寮が、本件株式を昭和五一年九月三〇日に原告から一株当たり一一〇〇円総額六六〇〇万円で取得した後、一年足らずの昭和五二年九月二〇日に第三者である愛知建設へ一〇億五六〇〇万円(一株当たり六〇〇〇円)で譲渡していることからも充分に窮えるところである。

岩崎学生寮から愛知建設への本件株式譲渡が特殊関係のない第三者に対するものである点を考えると岩崎学生寮の譲渡価額は土地譲渡類似の株式譲渡として正常価額でなされたものと考えるのが相当である。

ところで、岩崎学生寮が、オリンピック興業の昭和五一年一〇月の増資金額(一一万六〇〇〇株、一億二七六〇万円)の全額の払込みを行ったが、一方オリンピック興業は依然として休業中でその実態に変化のないことを考慮するとオリンピック興業の純資産価額は右増資相当分だけ増加したと推認され、そこで岩崎学生寮が愛知建設興業に右資産増加後のオリンピック興業を一〇億五六〇〇万円で譲渡しているので右譲渡価額から右純資産増加額を減じると、実質的な旧株数六万株の譲渡価額は九億二八四〇万円になることから一株当たりの譲渡価額を計算すると、実に一万五四七三円となり、当該譲渡価額は原告の岩崎学生寮に対する譲渡価額(一株当たり一一〇〇円)に比して、本件株式評価の重要な要素である本件土地の地価の推移(一〇六・九パーセント。)を考慮しても、いかにも高額であり、原告の岩崎学生寮に対する譲渡価額が著しく妥当性を欠く価額であることが容易にわかる。

(三) このことは、原告から岩崎学生寮への本件株式の譲渡価額と岩崎学生寮から愛知建設への譲渡価額との差額のうち、増資による払込金及び本件土地の地価の上昇分を除いた部分は、明らかに意図的な低額譲渡に相当するものであり、原告から岩崎学生寮に実質的に贈与したものと認めることができる。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求原因について

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  当事者間に争いのない事実

抗弁1掲記の表中1及び2、抗弁2並びに同3の各事実、同4中原告がその所有の本件株式六万株を昭和五一年九月三〇日一株当たり一一〇〇円総額六六〇〇万円で岩崎学生寮に譲渡したこと、同5中原告が本件事業年度に一億一五一六万五一六八円を損金の額に算入して申告したこと、同7(一)中本件株式は証券取引所に上場されておらずかつ気配相場のない株式であること、同7(二)中オリンピック興業の負債の評価額及び帳簿価額、同7(三)中オリンピック興業の資産のうちの預金額並びに負債評価額及び負債帳簿価額の各内訳け、同8中本件土地の時価を評価したものとして日興鑑定、三菱鑑定及び有山鑑定のあること、同9(一)中本件株式は、原告が昭和五〇年九月二三日に取得したものであること並びに同9(二)の表中(2)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  本件株式の昭和五一年九月三〇日における時価

(一)  原告が本件株式を岩崎学生寮に譲渡した価額(一株当たり一一〇〇円)は、山一証券が原告の依頼に基づいて評価した回答をそのまま採用したものであり、右評価は、純資産方式によってされたものであること及び本件株式の譲渡の日である昭和五一年九月三〇日現在オリンピック興業が休業中であったことは、当事者間に争いがない。

上場されておらずかつ気配相場のない株式の時価を評価する方法は、数種あるが、法人税法運用の実務においては、一株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引きされると認められる価額によるものとされていることは、当裁判所に顕著な事実であり(昭和五五直法二―八による改正前の昭四四直審(法)二五、法人税基本通達九―一―一四参照)、本件株式の評価については、原、被告とも純資産価額方式(「相続税財産評価に関する基本通達」一八八参照)によっているところ、オリンピック興業のようにいわゆる休眠会社であり、その株式は一〇〇パーセント原告が所有するような株式会社の株式の時価は純資産価額方式によって評価するのが相当であるから、以下右方式に基づき本件株式の昭和五一年九月三〇日現在(以下「評価時点」という。)における時価について検討する。

(二)  証人武田恒男の証言(以下「武田証言」という。)により真正に成立したと認められる乙第五号証中の水野貞雄の供述記載部分によって真正に成立したと認められる甲第一号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一二号証の一及び弁論の全趣旨によれば、昭和五〇年一〇月当時のオリンピック興業の資産のうち建物の帳簿価額は、一八四八万四六二〇円、設備のそれは三二五万五七九九円、造作のそれは二七万二一三七円、構築物のそれは六万五六六〇円、機械のそれは一二四二万五八八五円、土地のそれは一億円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  右資産のうち土地の評価額について、被告は、日興鑑定の評価額を相当と主張するところであるが、当裁判所も、以下の理由により、右鑑定による評価額は、昭和五三年一月一五日の時点におけるものとして相当なものであると判断する。

(1) その理由として、まず、第一に、日興鑑定は、依頼主が鑑定結果について注文をつけない、極めて客観的の担保された情況の下で行われたことがあげられる。すなわち、成立に争いのない乙第一号証、武田証言によって真正に成立したと認められる乙第一四号証中の芳野全伸の供述記載部分及び証人栗原敏の証言によれば、日興鑑定は、愛和建設が、岩崎学生寮より本件株式を取得することによって本件土地を購入した後、同地上にマンションを建設するにつき、国土利用計画法二三条一項に基づく届出をするため、客観的な立場から予定対価の額を評価することをオリンピック興業の名義で依頼したものであって、鑑定結果について特に注文がなかったため、評価額について何らかの操作を加える必要のない情況の下でされたものであり、右鑑定は極めて高い客観性を備えたものと認められるのである。

原告は、本件土地はマンション建設を目的として購入されたものであるところ、購入者であるマンション分譲業者としては、右予定対価を、自己の販売予定対価にまで引き上げる目的で時価をはるかに上まわるものとするのが通常であり、日興鑑定はその目的に沿って作成されたものである旨を主張する。しかしながら、もとよりマンション分譲業者の敷地の買取価格がそのまま分譲マンションの敷地売渡価格になるものではなく、分譲マンションの各区分所有部分の価額の決定については、敷地上に建築されるビルディングの質や、各部分の広さ等の要因が大きな比重を占めるものであるから、分譲業者が、分譲マンションの分譲価額を高くするために、自己の敷地買取価額をことさら高くする必要は全くないというべきである。

また、岩崎学生寮が昭和五二年九月二〇日本件株式を総額一〇億五〇〇〇万円で愛和建設に売り渡していることは、当事者間に争いがなく、武田証言により真正に成立したと認められる乙第一三号証中の河相稔の供述記載部分、前記乙第一四号証中の芳野全伸の供述記載部分及び証人田中昭の証言によれば、右売買契約において、買主側としては、本件土地を購入することのみに関心があったのであるが、売主側の強い希望により、やむなく本件株式の売買の形式をとったものの、その売買代金は、もっぱら本件土地の時価の評価によって決定されたものであり、右代金の決定については、当初買手側は八億円を、売手側は一二億円をそれぞれ提示し、交渉の結果前記代金額で落着することとなったこと、買手側としては、右代金額はやゝ高めであると認識していたが、その売買交渉において特に異状の点はないと認められるところ、日興鑑定は、右契約の締結された後に行われていることが明らかであるから、愛和建設に原告の主張のような目的があれば、日興鑑定における評価額は、当然右売買代金以上の額になっているはずであるのに、前者は七億七八〇〇万円と、後者より三億円弱も少いのであって、このことからも、原告の主張の理由のないことは明らかである。

(2) 次に、本件土地は、右に認定したとおり日興鑑定の行われた四か月程前に、株式売買の形式をもって現に一〇億五〇〇〇万円で売買されており、右売買代金額については買主側はやゝこれを高めであると認識していたが、通常の取引に基づく正常価額と考えられるところ、日興鑑定の評価額は、買主側が右売買の交渉において当初提示した金額を若干下まわるもののこれと相当に近似しており、かつ、右決定された売買代金額よりは大幅に下まわっているのであって、少くとも右鑑定の評価時点における本件土地の時価が、これを下まわるものではないという意味において極めて実証性の高いものと評価できるのである。

(3) 更に、前掲乙第一号証及び証人栗原敏の証書(以下これらの証拠を「前掲乙第一号証等」という。)によって認められる、日興鑑定がその基礎とした鑑定手法及び比準事例選択の基準は妥当であり、同じく右証拠により認められる日興鑑定が現に採用した比準事例も適切なものと認められるのであって、その鑑定の過程は合理的なものということができるから、その鑑定結果は、経験のある専門家の判断として優に尊重し得るものというべきである。

(四)  当裁判所は、右の理由により、日興鑑定の評価額は、その評価時点の時価として採用すべきものと判断するものであるが、原告は、右日興鑑定が相当性を欠くとして、種々主張しているので、以下これらの主張について判断を加えることとする。

(1) 原告は、日興鑑定が本件土地の最有効使用を中層マンション用適地と判定したことは誤りであると主張する。

しかしながら、前掲乙第一号証等によれば、本件土地は実測で二六〇〇平方メートル余という広大な土地で、ほゞ長方形の整形地となっており、国鉄目黒駅の西南約四五〇メートルという交通至便の地で、東側及び西側が公道に面し南側及び北側も通行可能で行政規制としても容積率 三〇〇パーセントであること、付近は工場、事務所、一般住宅及びマンション等が混在する普通住宅地であることが認められ、このような地域性等を勘案すれば、右最有効使用の判定は誠に相当であるといわなければならない。原告は、原告から岩崎学生寮への本件株式譲渡の時点において、マンション建設の目的など全く存在しなかったから右目的を前提とする評価は誤りであると主張する。しかしながら、土地価額の評価の前提とされる土地の最有効使用の判定は、合理的かつ実施可能な最高最善のあるべき使用方法を考えることによって、現実的な価額として最も高い評価額を算出しようとするものであることはいうまでもないところであって(成立に争いのない乙第二六号証参照)、現実の取引において当事者がいかなる使用方法を念頭に置いていたかにかかわるものではないから、右主張は採用することができないものというべきである。また、原告は、本件土地は工場、業務用の適地であると主張し、証人有山房夫は、昭和五〇年一一月一五日の価額時点においては、本件土地附近はマンション用地として熟成しておらず、標準的使用方法としてマンション用地を考えるのは時期尚早と判断した旨の右主張にそう証言をする。しかしながら、成立に争いのない乙第三号証によれば、同証人は、その行った有山鑑定において自ら本件土地の最有効使用方法の一つとして鉄筋コンクリート造大規模中高層マンションをあげていることが認められるうえに、前示のとおり本件土地は昭和五二年九月二〇日にマンション建設を目的として売買されているのであって、前掲乙第一三号証の河相稔供述記載部分によれば、その売買交渉は昭和五二年四月以前から行われていたことが認められるのであり、原告自身も、昭和五一年暮から翌五二年にかけ本件土地をマンション用地に最適と考えた不動産業者の買手が殺到した事実を認めているのであって、これらの事実によればそのほゞ一年前にしか過ぎない昭和五〇年一一月一五日において本件土地がマンション用地として成熟していなかったとは到底認めることができず、右証言はこれを採用することができないものというべきである。

(2) 原告は、日興鑑定が取引事例比較法の適用に当たって採用した比較事例地について、本件土地の属する準工業地域と同じ地域の事例のみを選択しなかったのは誤りであると主張する。

しかしながら、中高層マンションは、容積率、建ぺい率等の行政的規制が、居住空間の立体化により採算のあう戸数を可能とするマンション建築に適するものであれば、当該地域が第二種住居専用地域であろうと、商業地域であろうと、準工業地域であろうと建築されるものであって、その属する都市計画法上の区域の相違は、その個々の具体的な地域の特異性に応じた個別的修正を不可とする程度に大きいものではないということができるから、日興鑑定が取引事例として商業地域や第二種住居専用地域に属するものを採用しても不合理とはいえないというべきである。次に、原告は、日興鑑定が、事例地として本件土地に比し格段に条件の良い高価格のものをことさら取り上げている旨を主張する。しかしながら、日興鑑定を行うについて鑑定価額を高額にするような操作をしなければならない事情の何らなかったことは、前示のとおりであり、そのことからすれば、栗原不動産鑑定士がことさら事例地として高価額のものを採用する必要性は全くなく、この点からして原告の右主張は採用しえないというべきであるのみならず、証人栗原敏の証言によれば、日興鑑定は、事例地の選択に当たり、マンション建設が可能であるような敷地又は現にマンションが建てられている敷地で昭和五一年度以降の取引事例を基準として選択したことが認められ、このような選択基準は、前示の本件土地の最有効使用からすれば妥当なものというべきであるところ、マンション適地の取引事例となれば、それが生み出す利潤の観点からして、一般の普通住宅用の敷地の事例に比し高額となってくることは当然考えられるところであり、日興鑑定の選択した事例地が、三菱鑑定や有山鑑定におけるそれよりも高い価額となっていることも、後記認定のとおり、後者の両鑑定が中層マンション建築を最有効使用とする鑑定をしなかった以上当然のことというべく、これをもって日興鑑定の事例地の選択に誤りがあるということはできないものといわなければならない。

なお、日興鑑定が、目黒区下目黒二ノ一二―三の取引事例を採用しなかったのは、同鑑定が、基準として昭和五一年度以降の事例を採用するものとしていたところ、右事例は昭和五〇年度のものであったことによるものであることは、証人栗原敏の証言によってこれを認めることができ、右事実によれば、右事例が低価格の事案であるため日興鑑定がことさらこれを無視した旨の原告の主張は、根拠のないものであることが明らかである。

(3) 原告は、日興鑑定における事例地の価額の個別的要因及び地域的要因に基づく補正が低きに過ぎる旨を主張して、別表格差率対比表のとおりその独自の見解に基づく補正値を提示する。

しかしながら、日興鑑定の各事例地に対する地域要因及び個別要因による補正はいずれも適正なものと認められ、原告がこれを修正すべきであるとして主張している部分については、いずれもそのように修正しなければならない根拠を認めることができないから、右主張はこれを採用することができないのである(例えば、原告提示の補修正案のうち個別的要因における河川片側一方通行路の補正は、成立に争いのない乙第三六号証を参照しても、本件土地の面する公道が一方通行路となっているとは認められないし、本件土地の西側に河川があるといっても、要所要所に対岸に渡る橋が設けられていて、特に河川があることによって交通上不便を来しているとも認められないところである。また、証人栗原敏の証言によれば、目黒川にある程度の悪臭の発生があったとしても(最近における公害対策行政の進展に伴い、河川の悪臭は、ことに都市部において著しく改善されていることは公知の事実であるが)、鉄筋コンクリートで密閉性の高いマンションの用地としては、これを控除要因とすべきものと必ずしもいえないことが認められるので、これを一律に修正要因とした原告の補修正案も、これを採用することができないのである。更に、右補修正案は、事例地Bの交通接近条件の地域要因においてプラス一五としながら、同地の個別要因においてそれを上まわる二三プラスとしているが、これは右証人の証言に照らしても、ありえない修正であって、この点からみても、原告主張の補正値は、到底これを参酌すべきものとはいえないのである。)。

また、原告は、三菱鑑定や有山鑑定の採用している前記目黒区下目黒二ノ一二ノ三の取引事例においては、総面積五一九平方メートルを一平方メートル当たり一六万五一〇〇円で売買していることをとりあげ、右土地は本件土地に近接し、同一用途に供されていて地域要因がほとんど同様であるところからすれば、本件土地の価格水準もほゞ右と同様であるはずであるという。しかしながら、原本の存在及び成立に争いのない乙第三五、三六号証及び乙第三九号証によれば、右事例地は凸型をなす不整形地であり、かつ、東側において幅員四メートル程度の公道に接するのみの土地であって、目黒駅への距離をみても徒歩を基準とすれば本件土地より相当離れていることが認められるのであって、後記認定のとおり東側において幅員七メートルの区道に接し、西側も幅員四メートルの公道に接するほか南側、北側も通行しうる道路に接している整形地である本件土地とはその個別的要因において大幅な相違があり、売買時点のへだたりをも考えあわせれば、右売買価格と本件土地の評価額との間に相当程度の開きがあるのはむしろ当然ともいえるのである。

(4) 原告は、日興鑑定における収益事例地の地域要因による補正八〇分の一〇〇は根拠を欠くと主張する。

しかしながら、前掲乙第一号証等によれば、右収益事例地の属する地域は、幅員三ないし四メートルの狭い公道を中心とし、公道の曲折が多く、その配置、連続とも劣ること、容積率は三〇〇パーセントではあるが、右のとおり接面する道路の幅員が狭いことによる制約のため右容積率をそのまま実現することができないこと、日興鑑定は、以上のような事情を参酌して、収益事例地の地域要因として、街路条件において一〇パーセント(幅員及び配置につき各三パーセント、連続性につき四パーセント)、行政的条件において五パーセント減じたものであることがそれぞれ認められるところ、右日興鑑定の認定判断はいずれも相当というべきであり、したがって、原告の右主張はこれを採用することができないものといわなければならない。

次に、原告は、日興鑑定が還元利回りを年五パーセントとしたのは失当であると主張する。前掲乙第一号証等及び証人有山房夫の証言を参酌すれば、利回り率としては、商業地域については年六パーセントを、マンション、アパート等の賃貸を想定する住宅用地については年五パーセントをそれぞれ採用するのが相当と判断されるところ、日興鑑定は、本件土地をマンション建築敷地として鑑定したのであるから、これを住宅用地であるとして還元利回りに年五パーセントを採用したのは当然であり、原告の右主張は理由がないというべきである。原告はまた、収益地については角地補正をすべきであると主張するが、前掲乙第一号証等及び乙第三号証によれば、右土地は角地ではないと認められるから、右主張は失当である。

(5) 原告は、日興鑑定が、その算出した標準地の評価額と、国土庁の地価公示標準地及び東京都の地価調査基準地のそれとを規準するとして採用した公示地等取引事例は、ことさら高価で、比較のために不適当である旨、規準に当たって右公示地等の価額についてした修正は根拠がない旨、地域格差については各土地の路線価格及び固定資産評価額の対比によってするのが合理的である旨、また、日興鑑定が参考としたという地元精通者の意見は、いわゆる呼び値で時価よりはるかに高いものである旨を主張する。

しかしながら、前掲乙第一号証等によれば日興鑑定は、対象地の最有効使用をマンション用地とする見地から、近隣の公示地よりマンション建設が可能であるような条件のものを選択したものであり、ことさら高価格なものを選択したものではないこと、標準地の価格と規準するについて右公示地等の価額についてした修正も、その街路条件、交通、接近条件、環境条件及び行政的条件を参酌した適切なものであることが認められるのである。証人有山房夫は、右公示地等を比準事例とすべきではないと考える旨を証言するが、右証言部分は、同証人の独自の立場からする見解の表明に過ぎず、これを採用することはできない。他に右認定・判断に反する証拠はない。また、日興鑑定が参考にしたという地元精通者意見が、原告のいわゆる「呼び値」であるという事実を認めるに足りる証拠はなく、かえって、前掲乙第一三号中の河相稔供述記載部分によれば、本件株式の実質的な買主である東洋総業有限会社においては、昭和五二年九月当時本件土地を坪当たり一〇〇万円、面積概算八〇〇坪として八億円と見積っており、愛媛相互銀行においても同額の概算見積り評価をしていたことが認められるのであって、このことに徴すれば、右地元精通者意見は、これを信用するに足りるものというべきである。よって、原告の右各主張は、いずれもこれを採用することができない(なお、各土地内の格差を、各土地の路線価格及び固定資産評価額の対比をもって算出するのも、一つの方法ではあるが、これによらずに格差を算出することが不合理であるとは認められないというべきである。)。

(6) 原告は、日興鑑定が、本件土地と標準地との対比のためにした要因補正につき、三方路及び側道のプラス八パーセントは五パーセントが適当であり、また本件土地の地積が過大であることにつきマイナス一三・六パーセント程度の面大修正を施すべきであるし、本件土地に工場や煙突等が残存する以上建付地として減価すべきであるのにこれをしていないのは不当であると主張する。

前掲乙第一号証等、成立に争いのない乙第二号証、前掲乙第三六号証によれば、本件土地は、その東側を幅員約七メートルの区道に、西側を幅員約四メートルの公道に、北側と南側が幅員約二メートルの道路に面していて、四方路といえる極めて条件の良い土地であることが認められ、証人有山房夫の証言中右認定に反する部分は、これを採用することができないところ、右認定事実によれば、日興鑑定が三方路及び側道があるとしてした八パーセントの要因補正は適切というべきである。また、日興鑑定は、本件土地の最有効使用を中高層マンション建築敷地としたのであるから、面積の大きいことは、その目的のためにプラスにこそなれ、マイナスになるものではないというべく、日興鑑定が面大修正をしなかったのは当然というべきであるし、前掲乙第一号証等によれば、日興鑑定は、本件土地の、マンション建設計画に基づく整地後の更地価格を独立して鑑定評価したものと認められるから、同地上にある工場等の建物は、これをないものと仮定して鑑定したものである以上、建付減価などをしないのは当然のことというべきである。そうすると、原告の前記主張もいずれも理由がないというべきである。

(7) 前掲乙第一号証によれば、本件土地の地積は、公簿上二五四二・九九平方メートルであるものの、実測によれば二六二四・八七平方メートルであることが認められるところ、原告は、本件株式売買の当事者間においては、本件土地を、公簿面積を前提として評価したから、これによるべきであると主張する。しかしながら、本件株式の時価を純資産価額方式によって評価する以上、資産に含まれる本件土地の価額は、客観的な交換価値によって把握されるべきであるから、その地積も実際の面積によるべく、原告の右主張は理由がないというべきである。

(8) 原告は、本件土地の評価額については、三菱鑑定又は有山鑑定を採用すべきであると主張する。

しかしながら、本件土地の最有効使用はこれを中高層マンション建築敷地とすべきこと前示のとおりであるところ、前掲乙第二号証及び証人名村春謳の証言によれば、三菱鑑定は、本件土地の最有効使用を分割しての事業所用地又は一括しての集合住宅用地と選択的に決定した上で鑑定作業を行っているのである。一般に、対象土地の最有効使用を、分割しての事業所用地とするか、一括しての集合住宅用地とするかでは、その価格に大幅な相違が生じると考えられるのであるが、三菱鑑定においては、右の二つの最有効使用を併記しながら、一個の評価額を算出しているのであって、その鑑定の過程においても、最有効使用をマンション適地とするのであれば当然行われるべき事項(比準事例地の選択の基準、事例地の要因補正、容積率の考慮、面積過大の不考慮等)が行われておらず、結局のところマンション建設は、右鑑定においてほとんど前提とされていないというほかないのである。また、前掲乙第三号証及び証人有山房夫の証言によれば、有山鑑定は、本件土地の最有効使用を鉄筋コンクリート造大規模中高層マンション又は一五〇平方メートル程度の区画に鉄骨三階建、中規模工場を建設することとしながら、その評価額は、本件土地の標準的使用を前提として算定するものとし、その標準的使用を一画地一五〇平方メートル程度の中規模工場又は一〇〇平方メートル程度の画地に低層住宅を建築することとして、中高層マンション建築については、鑑定評価に当たり全くこれを参酌していないのである。

以上のとおり、右両鑑定とも、本件土地の最有効使用を中高層マンション建築敷地とせずにその評価額を出しているのであり、この一点において既に右両鑑定はこれを採用するに由ないものというべく、原告の主張はこれをとることができないものといわなければならない。

(9) 原告は、本件土地の評価については、山一鑑定の行ったように相続税財産評価に関する基本通達に基づく路線価方式によるべきであり、相続税法上右方式による価額が時価とされる以上、法人税課税においてもこれを時価とすべきであると主張する。

しかしながら、相続税の課税実務においては、その主張の通達によりいわゆる路線価方式によって相続財産中の不動産の評価がなされているとしても、法人税課税実務上必要な財産評価についても右と同一の方式で行わねばならないとする根拠はなく、法人の所得の把握は、実額においてなすべきものであり、本件のように財産の低額譲渡が行われ、いわゆるみなし所得が発生しているとされる場合における財産の本来有する価値の把握は、その財産の種類や、そのおかれている特別の諸条件に応じ、その客観的な取引価額を最も的確に見出すことのできる手段・方法によってなすべく、必ずしも右の路線価方式のような形式的、画一的な方式によるべきものとはいえないから、原告の右主張はこれを採用することができないのである。

以上のとおり、日興鑑定が相当性を欠くとする原告の主張はすべて理由がなく、日興鑑定の出した評価額は、その評価時点における本件土地の客観的な価額と認めるべきである。

(五)  前掲乙第一号証及び成立に争いのない乙第一八号証の一、三によれば、日興鑑定が本件土地の比準公示地として採用した目黒区三田二丁目一番九の土地(目黒一一番)の一平方メートル当たり公示価格は昭和五三年度において二一万七〇〇〇円、昭和五一年度において二〇万三〇〇〇円であることが認められる。右の公示地における価格の推移は、本件土地の昭和五一年度から昭和五三年度までにおける価格の推移とほゞ同様であるものと認めて差し支えないものと考えられるので、右の数値によって日興鑑定の評価額を評価時点に時点修正すると、次の算式のとおり二七万七二八二円となる。

(算式) 203,000÷217,000≒0.9355(小数点5位以下四捨五入)

296,400×0.9355=277,282(小数点以下四捨五入)

(六)  オリンピック興業の昭和五〇年一〇月当時における預金及び土地を除くその余の資産の帳簿上の価額は前認定のとおりであるところ、右資産の評価額については、右帳簿価格を下まわることを認めるべき的確な証拠はない。証人田中昭は、オリンピック興業の資産中の機械につき、岩崎学生寮へ本件株式を売り渡す当時において機械が止まってから相当年数を経過し、サビが付いて使えるような状態ではなかった旨を証言する。しかしながら、右証人の証言、成立に争いのない乙第一一号証の一及び本件記録中の原告の登記簿謄本によれば、原告は、もとオリンピック製菓株式会社という商号であって、本件土地上の製菓工場において菓子等を製造し、これを販売していたが、営業状態の悪化により昭和五〇年五月に菓子の製造をやめ、右工場を閉鎖したこと、右土地上にある右工場、機械設備、女子寮等については、賃貸、売却等によって利益を出していく趣旨で、その業務を担当させるため同年九月一日オリンピック興業が資本金三〇〇〇万円、原告の一〇〇パーセント出資(右工場、寮、機械等の現物出資を含む)によって設立されたこと(設立登記は同月二三日に経由されている。)しかしながら、工場、建物、機械等については借り手や買い手がみつからなかったため、原告は、その後岩崎福三から買い受けた本件土地ともども本件株式を岩崎学生寮に譲渡することとしたことが認められ、右認定に反する証拠はないところ、右認定事実によれば、右工場や機械等は昭和五〇年五月までは稼働されていたのであって、同年九月の時点においては、前記帳簿価格によって現物出資されたものの、その後一年しか経過しない昭和五一年九月に至るまで賃借先や買受先が物色されていたものであるから、右時点において右各資産が帳簿価格を下まわる程にその価値を減じていたと認めることはできず、前記証人田中昭の証言はこれを採用できないものというべきである。

そうすると、前記各資産の評価額は、帳簿価額と同額と推認すべきである。

(七)  以上に判示した各数値に基づき、前記相続税財産評価に関する基本通達一八八によって本件株式の昭和五一年九月時点における時価を算出すると、次の算出のとおり一株当たり五二七八円となる。

(算式) 〈1〉 オリンピック興業の純資産評価額

六億四九四六万五七二九円

442,195+18,484,620+3,255,799+272,137+65,660+12,425,885+277,282×262,487-113,309,770=649,465,729

(小数点以下切捨て)

〈2〉 オリンピック興業の帳簿価額による純資産価額

二一六三万六五二六円

442,195+18,484,620+3,255,799+272,137+65,660+12,425,885+100,000,000-113,309,770=21,636,526

〈3〉 資産の評価替えに伴って生ずる評価益(〈1〉―〈2〉)

六億二七八二万九二〇三円

〈4〉 右評価益に対する法人税相当額(〈3〉×〇・五三)

三億三二七四万九〇〇〇円

627,829,203×0.53=332,749,000(1,000円未満切捨て)

〈5〉 純資産価額(〈1〉―〈4〉)

三億一六七一万六〇〇〇円

(一〇〇〇円未満切捨て)

〈6〉 一株当たりの純資産価額(〈5〉÷六万株)

316,716,000÷60,000=5,278(1円未満切捨て)

(八)  原告は、本件土地上に所在する前記の工場、建物等については除去費用を計上すべきである旨、またオリンピック興業が会社創業後一年を経過しておらず休業中で当分収益の望めない点及び株式譲渡制限規定の存すること等の事情から三〇パーセント程度ディスカウントすべきである旨を主張する。しかしながら、右工場、建物等が本件株式譲渡の時点において少くともその帳簿価額程度の価値を有していたことは、前認定のとおりであって、本件株式の譲受人としてはこれら資産の有効な活用を図ることも不可能とはいえないのであるから、最初からその除却を前提としてその費用を見込むことはできないというべきであるし、本件株式の評価は、活動中の株式会社について、その活動による利潤の見込み等の無形の利益を考慮に入れてなされたものではなく、いわば同社の清算時における価額を求めるものなのであるから、同社が休業中であることを理由に何割かを控除しなければならない必要は全くない(なお、株式の譲渡を受ける者にとって、当該株式の譲渡制限規定の存在は何ら意味を有しないというべきである。)から、原告のこれらの主張はいずれも理由がなく、本件株式の時価は前示のとおり一株当たり五二七八円であるというべきところ、被告はこれを一株当たり三八〇五円と認めており、この認定額は、右時価を下まわるから適法なものというべきである。

3 寄付金の損金不算入分

(一)  以上によれば本件株式の時価を一株当たり一一〇〇円と評価してした原告から岩崎学生寮へのその譲渡は、著しい低額譲渡であるというべきところ、原告と岩崎学生寮との人的、資本的つながりをみると、前者の代表取締役である岩崎与八郎が後者の理事であり、前者の取締役である右与八郎の長男及び四男も後者の理事であるほか、その余の後者の理事も右与八郎の親族が占めていること、原告の株式の二三パーセントを所有する銀二不動産株式会社の株式の四一パーセント、原告の株式の一〇パーセントを所有する岩崎産業株式会社の株式の三三パーセントをそれぞれ岩崎学生寮が所持する関係にあることは、当事者間に争いがなく、これらの事実に成立に争いのない乙第六号証をあわせれば、原告と岩崎学生寮は、創業者岩崎与八郎を総師とする岩崎グループ(六〇社二法人によって構成)に属し、人的にも資本的にも極めて密接な関係にあることが認められるのであって、右事実に徴すれば、本件株式の譲渡の時における価額と、その時価との差額は、これをすべて実質的に贈与したものとして法人税法三七条六項により寄付金の額に算入されるべきものというべきである。原告は、右株式の譲渡は経済的合理性のある取引であると主張するが、右譲渡に当たり、原告と岩崎学生寮との間で売買価格の決定について交渉が行われた形跡がなく、時価より著しく低いことの明らかな山一鑑定の結果をそのまま売買価格としている点のみからしても、このような主張には理由のないことが明らかである。また、原告は、本件株式の譲渡の当事者間に、低額譲渡の認識はなかったと主張するが、前示のとおり客観的な事実から、差額分については実質的に贈与したものと認められる以上、当事者が、低額譲渡の事実を認識していたかどうかはこれを確定する必要のないものというべく、原告の右主張は採用することができない。

(二)  以上によれば、右売買価格一一〇〇円と、右時価の範囲内である被告認定額三八〇五円との差額に六万株を乗じた分一億六二三〇万円のうち、法人税法三七条二項、同法施行令七三条一項一号による損金算入限度額を超える分は、これを損金に算入できないこととなる。

損金算入限度額は、右寄付金認定額一億六二三〇万円に原告の申告所得金額一億〇二八三万二三三一円(原告の申告による繰越欠損金当期控除額一億一五一六万五一六八円から原告の申告による控除所得税額一二三三万二八二七円及び原告の申告による還付所得税額二九七万二一六八円を控除した額)及び還付所得税減算過大額三五〇〇円を加えた額二億六五一三万五八三一円の一〇〇分の二五に相当する六六二万八三九五円に、原告の資本金額一億円(本件記録中の原告の登記簿謄本による)の一〇〇分の二五に相当する二五万円を加え、これを二で割った額三四三万九一九七円である。そうすると寄附金の損金算入限度額を超える分は一億五八八六万〇八〇三円となる。

4 繰越欠損金当期控除額

原告が法人税法五七条一項の規定に基づき本件事業年度に一億一五一六万五一六八円を損金の額に算入して申告したことは、前記のとおり当事者間に争いがなく、また、本件更正が正当であれば本件事業年度の繰越欠損金の額が一億五〇八四万八六二八円となることも、当事者間に争いがないところ、後記のとおり本件更正は正当であると認められるから、右欠損金は一億五〇八四万八六二八円となる。

5 課税土地譲渡利益金額

(一)  オリンピック興業の有する資産の価額の総額のうちに、同社が昭和四四年一月一日以後に取得した土地の価額の占める割合は、前示の帳簿価額によれば七四・一パーセント、評価額(土地については時価を下まわる被告認定額による。)によれば九三・九パーセントとなることは計算上明らかであり、同社が本件土地を昭和五〇年度に購入したことは当事者間に争いがなく、かつ前示のとおりオリンピック興業は原告が一〇〇パーセント出資して設立されたものであり、本件株式の譲渡の時まで原告はその全てを所有していたのであるから、原告の本件株式の譲渡は令三八条の四第三項の規定する要件に該当し、租税特別措置法六三条一項二号にいう「その有する資産が主として土地等である法人の発行する株式……の譲渡」に当たることとなる。

しかるところ、右規定による土地の譲渡等に係る収益の額は、前記一株当たり価額三八〇五円に六万株を乗じた二億二八三〇万円であり(令三八条の四第四項二号)、原価の額は本件株式の帳簿価格三〇〇〇万円であり(この額は当事者間に争いがない。同条五項二号)、負債利子の額は、右原価の額に保有期間の月数(オリンピック興業の設立された昭和五〇年九月から同社事業年度である同年一〇月までの二か月)を乗じこれを一二で除して計算した額五〇〇万円と、右原価の額に当該譲渡をした日を含む事業年度の保有期間の月数(昭和五〇年一一月から昭和五一年九月までの一一か月)を乗じこれを一二で除して計算した額二七五〇万円との合計額三二五〇万円に六パーセントを乗じて計算した金額一九五万円であり(同条六項一号)、販売費及び一般管理費の額は、右合計額三二五〇万円に四パーセントを乗じて計算した金額一三〇万円であるから、課税土地譲渡利益金額は、右収益の額より右原価の額、右負債利子の額並びに販売費及び一般管理費の額を控除した一億九五〇五万円となる。したがって、これに措置法六三条一項の特別税率を適用した本件更正には違法はない。

6 過少申告加算税

以上のとおり、本件更正は適法であり、原告の本件事業年度における課税所得金額は一億二三一八万〇八四三円(その法人税額四八四三万三二〇〇円)に、課税土地譲渡利益金額は一億九五〇五万円(その税額三九〇一万円)にそれぞれなるから、同年度における原告の税額は八七四四万一九〇〇円となり、これに国税通則法六五条一項の規定による割合を乗じた額四三七万二〇〇〇円が過少申告加算税額となる。

したがって、本件決定は適法であるといわなければならない。

7 結論

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 中込秀樹 裁判官 金子順一)

別表 〔個別的要因の格差率の対比表〕

各事例地の上段は日興鑑定書の格差率

中段は客観的妥当な格差率

下段は差異あるときの理由の要旨

〈省略〉

※ 格差率は土地価格比準表(国土庁地局地価調査課監修・地価調査研究会編著)に基く。

※ 総合判定の小数点以下四捨五入

〔地域要因の格差率の対比表〕

〈省略〉

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